健康のために普段から気をつけていることはありますか?たとえば、甘い物やお酒を控える、週に1度はウォーキングするなど、それぞれの内容で、自身の健康を気遣っている方も多いことでしょう。
それもこれもすべて、これからの人生を健やかに過ごすため。病気になってから治療をするのではなく、病気になるのを防ぐことから健康寿命は長くなります。
長く健やかに、アクティブな人生を送る鍵である「予防医療」について解説していきます。
予防医療とは?
予防医療とは、病気や怪我が発生する前に未然に防ぐことを目的とした医療です。従来の「治療医療」は、病気が発症してから治療を行いますが、予防医療は健康な段階で病気のリスクを低減することに焦点を当てます。
具体的には、定期的な健康診断や検診での早期発見、感染症リスクを抑える予防接種など「そもそも病気にならない」状態を目指す対策です。
「そもそも」ですから日常生活においても予防の意識を高めることが大切。たとえば食生活や運動習慣の見直し、禁煙や節酒、ストレス管理といった生活習慣の改善も予防医療の重要な要素です。
長く人生を歩む自分の身体を自己管理することで、病気の発症や重症化を防ぎ、医療費の削減や健康寿命の延伸、生活の質(QOL)の向上につながることが期待されています。
予防医療の4段階
予防医療には段階があります。これまでは「3段階」とされていましたが、昨今は1次予防である「日常の予防」より手前の段階も注目されています。具体的にどういった段階があるのか、それぞれの内容は以下の通りです。
ゼロ次予防
「ゼロ次予防」とは、病気や健康リスクを意識した環境を整えることを指します。
病気の原因となる生活環境や社会環境を改善し、健康リスクを未然に防ぎます。具体的には空気や水の質を向上させる取り組みや、屋内禁煙や歩きたばこの禁止、地域全体での運動促進活動、健康的な食事を提供する環境作り等多岐に渡ります。
ゼロ次予防は健康教育や意識改革を通じて、病気に対する知識を広め、人々の健康への意識を高めることも重要視されます。こういった取り組みにより個人の健康意識(ヘルスリテラシー)が向上し、病気を未然に防ぐ「健康文化」が社会に根付くことが期待されるのです。
一次予防
「一次予防」は、病気やケガが発症する前の段階で予防することを指します。ゼロ次予防は「地域」「社会」といった公の部分での予防ですが、一次予防は個人の健康維持に関わる具体的な取り組みと捉えてください。
たとえば予防接種を受けることで感染症リスクを抑える、生活習慣の改善によって生活習慣病を予防する、しっかり睡眠を取ることなども一次予防とされます。
心身の個人的なケアですので、ストレス管理としてカウンセリングやプロのサポートを受けることも予防に有効とされる対策です。
一次予防の重要な点は、病気の発症リスクが高くなる前に積極的に対策を行うことで、病気の発症そのものを抑制することにあります。
二次予防
二次予防は病気の兆候やリスクが見られる段階での早期対応を指します。具体的な取り組みとして、定期的な健康診断や各種がん検診、血圧や血糖値の定期チェックなどが相当します。
定期的な心身のチェックにより、たとえ何かしらの疾患が見つかったとしても、病気が軽度のうちに発見されることで治療も早く始められ、重症化や合併症を防ぐことが可能になるのです。
三次予防
三次予防は、すでに発症した病気や障害に対して、その進行を抑えたり、再発を防止することを目的とした医療アプローチです。一次予防や二次予防が病気の発症や早期発見に重きを置いているのに対し、三次予防は病気が進行しないよう管理し、後遺症や合併症のリスクを最小限にするための治療とリハビリテーションが目的となります。
病気や療養によって機能が低下した身体の回復を目指し、日常生活の質を保つためのリハビリや理学療法を通じて、病気になった後も自立した生活を送ることができるようにサポートすることが三次予防です。
予防医療が重要視される背景
予防医療が重要視される背景を簡潔に言うと「医療費の増加」「高齢化社会」の2つと言われています。
健康寿命を延ばし、個々が長く自立した生活を送れるようにするためにも、発症前から健康を維持する取り組みが社会全体で必須事項となる現在。
予防医療と私たちの生活にはどんな深い関係性があるのでしょうか。
超高齢社会の現実
「超高齢社会」とは、65歳以上の人口の割合が全人口の21%を占めている社会を指します。日本は2007年にこの割合が21.5%を超え、すでに超高齢社会に入っています。
高齢者人口の増加に伴って医療費や介護費がこれからも増加するのは目に見えていることでしょう。高齢者の健康問題は「疾患の長期化」が多く、医療システムに大きな負担となり得るため、健康寿命を延ばすためにも予防医療が注目されているのです。
慢性疾患への対策
糖尿病や高血圧、心疾患、がんといった慢性疾患は、一度発症すると長期間にわたって治療が必要となります。厚生労働省によると、2023年度の日本人の死因は第1位「悪性新生物(ガン)」第2位「心疾患(高血圧性を除く)」第3位「老衰」。(参考:厚生労働省 令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/gaikyouR5.pdf
)
老衰以外の疾患に関して早期の予防ができるように生活習慣の見直しが重要視されているのです。
疾患が慢性化するということはその分、医療システムや社会保障費を増幅させることに繋がります。若い世代の負担を減らすためにも、予防できる疾患は社会全体で予防していくことがこれからの課題となっているのです。
平均寿命と健康寿命
日本人の平均寿命は延び続けていますが、健康寿命、つまり自立した生活を送ることができる期間との間には差があるという残酷な現実を皆さんはどう受け止めるでしょうか。
多くの人が、長寿になるなら健康で生きていたい、誰にも迷惑をかけずに生きていたい、そう理想を抱くことでしょう。
平均寿命と健康寿命とのギャップは10年前後とも言われています。現状、長寿になればなるほど、生活習慣病や慢性疾患のリスクが高まり、医療や介護の支援を必要とする場面が増えるのは否めません。
平均寿命は長くても、健康寿命が短ければ、長期間にわたる医療や介護が必要となり、本人もつらい期間が長くなりますし、社会全体の社会保障費増加も懸念されています。
少しでも長く健康で生活の質(QOL)を高めることが、本人にも社会全体にも健やかな状態だと言えるでしょう。
QOLとは?
QOL(Quality of Life、クオリティ・オブ・ライフ)とは、個人の生活の質を指す概念で、身体的、精神的、社会的な健康や幸福感、満足度を総合的に評価するものです。
単に病気がない状態を意味するのではなく、心身の健康、仕事や学業、家庭生活、社会的関係、精神的な安定など、人生全般における満足感や充実感を含みます。
QOLは、特に医療や福祉の分野で重要視され、治療の効果や介護の質を評価する指標としても使われます。病気や障害がある場合でも、適切なケアや治療、社会的支援を受けることでQOLを維持・向上させることが可能です。
予防医療はQOL向上に大きな役割を果たすことは明確です。健康診断や生活習慣の改善など、健康維持のための取り組みを通じて病気を未然に防ぎ、日常生活を快適に送ることができることは、QOLの向上へと繋がります。
生活の質は睡眠の質とも高いリンク性を持っています。睡眠不足を放置すると疲れが蓄積され、仕事のパフォーマンスも落ちてしまいかねません。身近なところからできる生活習慣の改善として、ぜひこちらの2つのコラムも合わせてお読みください。
高齢者のQOLを高めるためには?
高齢者のQOL(生活の質)を高めるためには、身体的、精神的、社会的な側面での支援が重要です。
身体的な健康維持には、定期的な健康診断や予防接種、適度な運動が欠かせません。運動は筋力や柔軟性を保ち、転倒予防や生活習慣病の管理にも効果的とされます。
精神的な健康維持には孤独感を招かないために「生きがい」「充実感」といった感情のサポートも大切です。
地域活動や趣味、友人との交流はメンタルヘルスを安定させるだけでなく、認知症の予防にも期待がされています。
バリアフリー住宅や、適切な介護支援もまた、高齢者のQOL向上に大切な要素です。
家族や介護者、地域社会とのコミュニケーションを深め、自分らしく充実した生活を送るためには全方位的な支援が必要であり、そのサポートがあって自立した生活が長く続けられるようになるのです。
医療制度の維持
予防医療が重要視される背景には、医療制度の維持が深く関係しています。
人口の高齢化と医療費の増加は切り離せない大きな問題です。高齢者に多い生活習慣病や慢性疾患は、治療に長期間の医療を必要とし、医療システム・社会保障費の負担を増大させ、現役世代の打撃を回避しにくくさせていると言われています。
予防医療は長期間に渡る疾患を未然に防ぐことで医療費の削減に繋がり、治療費や入院費を抑えることも期待できるでしょう。
日本の医療制度はすごいのです。
「ちょっと風邪っぽいな…念のために病院行っておこう!」と病院やクリニックへ行ってお薬を出してもらった方も多いのではないでしょうか。
日本で生活をしていると、病院で先生に身体の状態を検査してもらうことはとても身近な行為です。しかしこの「簡単にアクセスできる医療」があるからこそ、医療費・社会保障費の確保が難しくなってきている現実が指摘されています。
日本の医療制度は、世界的に見ても優れていると評価されています。その特徴的な点は、全ての市民が医療サービスを平等に受けられることです。
日本では国民皆保険制度が導入されており、すべての国民が保険に加入する義務がありますが、この制度のおかげで、収入にかかわらず、誰でも必要な医療を受けることができ、経済的な理由で治療を受けられないという状況を避けています。
また、患者は一定の自己負担額を超えると、その後の治療にかかる費用が保険でカバーされます。言い換えれば、現役世代が払ったお金で現在の医療を支援しているので、少子高齢化が進むと給付と負担のバランスが揺らぐことは明らかでもあるのです。
少子高齢化・健康寿命・医療費負担の削減など、こういった包括的な側面から、今予防医療が注目されており「自分らしくいつまでも健康に生きる」ことが、持続可能な社会を形成する要素となると指摘されています。
予防医療が普及するためには?
予防医療が広く普及するためには、個人レベルの努力だけでは十分ではありません。個人はもちろん、社会全体で健康維持への意識を高め、予防医療の大切さをしっかり理解してもらうことが重要です。
具体的にどういった取り組みが良いとされるのかを解説します。
企業が従業員のためにできること
企業が積極的に従業員の健康管理に取り組むことで、従業員の個人レベルでの健康管理の意識作りが高まっていくことでしょう。
たとえば健康診断やストレスチェックの実施は基本的な取り組みですので多くの企業がすでに実施しているはずです。
加えて、社内に健康相談窓口を設けたり、栄養指導や禁煙プログラム、適度な運動を促すフィットネスイベントやヨガクラスなどを定期的に開催したりすることで、従業員の健康意識はもっと高まっていくことでしょう。
そして、柔軟な勤務制度を活用し、働き方を改善することも心身の負担軽減につながります。健康的な社員食堂の導入や食生活に関する情報提供も、食習慣改善の一助となります。
一次的にコストはかかることではありますが、従業員の健康管理に取り組むことは、従業員の健康リスクを未然に防いで生産性の向上に繋がるという大きなメリットに繋がるのではないでしょうか。
また、1日の大半を過ごす職場がストレスの巣窟となってしまわないように、良質なコミュニケーションが可能な環境を整えることも大切です。
従業員とのコミュニケーションでお悩みの方はぜひこちらのコラムをお読みください。良質なコミュニケーションの手助けとなることでしょう。
自治体の協力
地域の住民が気軽に予防医療を受けられるよう、自治体が主導して環境を整えることで、健康リスクを未然に防ぐ意識が浸透しやすくなります。
地域住民向けの健康講座や栄養指導、運動教室などを開催し、生活習慣の改善をサポートする取り組みがされることで、予防医療がより身近な存在になるでしょう。
デジタル技術の活用
「デジタル技術」という響きですごいことを開発しなければ!と思われるかもしれませんが、すでに私たちの生活には健康にまつわるデジタル技術で溢れています。
たとえばスマートフォンのアプリやウェアラブルデバイスを活用すること。日常の健康管理がより手軽になるため、予防医療へ触れる機会が増えることになります。
スマートウォッチによる心拍数や血圧、睡眠データの測定は、生活習慣病の予防に役立ち、異常があれば早期に気づくことが可能です。
健康管理アプリの普及により、日々の食事内容や運動量を記録し、健康目標を設定することで、個々人が自分の健康状態を管理しやすくなっています。
AIの活用がもっと身近になれば、自治体や医療機関と連携しオンライン健康診断や遠隔診療を実施することで、場所に関係なく検診や相談ができるようになるのも不可能ではありません。
ビッグデータの収集・分析にAIを活用したならば、個別のリスクに応じた予防策を提供することも可能でしょう。
予防医療でいつまでも自分らしく!
好きなものを食べて、いっぱい笑って、10年後も20年後も30年後も心身ともに健康な高齢ライフを過ごす、誰もが理想とする「長生き」の姿です。実現するために、個人レベルでこの瞬間から健康への興味・意識を高めていきましょう。
少しの積み重ねが数十年後に大きなリターンとして返ってくるはずです。
健康診断や人間ドック、専門家のサポートも受けながら健康維持につなげてみてください。
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