若い女性や子供は特に注意!鉄欠乏性貧血を防ぐ食事

鉄の文字とマーカーペン





鉄を毎日意識して摂れていますか?

 

鉄は吸収されにくい栄養素であるにも関わらず、日本は諸外国に比べて摂取率が少ない栄養素です。特に女性や子どもは鉄が不足すると鉄欠乏性貧血のリスクが上がってしまうので注意が必要です。

 

今回のコラムでは不足しがちな鉄を手軽に増やす事ができる食事のポイントを管理栄養士がお伝えします。

 

鉄の働きと種類

鉄は人の体の中でどのような働きをしているのかみていきましょう。

鉄の働き

鉄は成人の体内に3~4g含まれており、酸素の運搬と貯蔵という重要な働きをしています。

人は主に炭水化物、脂質、タンパク質の3大栄養素からエネルギーを得ていますが、エネルギーを生み出すミトコンドリアの中にある回路をうまく動かす為にも鉄の働きが必要です。

 

ミトコンドリアの機能が低下すると、「疲れやすい」「やる気が出ない」といったサインが現れます。また、やる気を高めるノルアドレナリン、ドーパミン、幸せホルモンのセロトニンなどの脳内ホルモンを作る上でも鉄は欠かせない栄養素です。体内に存在する鉄はヘモグロビンやミオグロビンといった酸素の運搬役として使われる「機能鉄」や肝臓や脾臓、骨髄に貯蔵されている「貯蔵鉄」といったように役割ごとに種類が分かれます。機能鉄が不足すると、それを補う為に貯蔵鉄が利用され、これが少なくなる事でヘモグロビンが薄まりめまい、立ちくらみ、動悸などの症状が目立つようになります。

 

例えるならば機能鉄はお財布に入っている鉄、貯蔵鉄は預金通帳に預けている鉄といったイメージです。預金が無くなると、補給する所が無くなり困ってしまいますよね。それほど重要な鉄であると言えます。

 

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、1日あたりの鉄の食事摂取基準では月経のある女性で10.5mg、月経のない女性は6.5mg、妊娠中期・後期では16mgもの鉄が必要です。妊娠中は特に鉄を意識した生活になります。ちなみに男性は7.5mgです。

 

近年食材の鉄の量が減少している

鉄は吸収されにくい栄養素でありながら、この20年で野菜の栄養価や肉、卵、大豆に含まれる鉄が減少している事がわかっています。すなわち、今まで以上に鉄分の摂取を念頭に置かなけば日本人はどんどん貧血の人が増えてしまう危険性があります。鉄欠乏性貧血が少ない国では国民がよく口にする小麦粉や塩、米、醤油などの食材に鉄が添加されています。

 

鉄の種類

鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄の2つの種類があります。しかし、食事に含まれる鉄分は食べた物が100%吸収されるわけではありません。それぞれの鉄の特徴を見ていきましょう。

 

ヘム鉄

体内への吸収率はヘム鉄が約25%と高い割合を占めており、これらが含まれるレバー、牛赤身肉、アサリ、マグロ、カツオなどの食品は鉄欠乏性貧血の対策に欠かせません。牛肉を選ぶ時はぜび鉄分が豊富なヒレ肉を選ぶようにしましょう。

 

非ヘム鉄

ひじきやほうれん草、大豆製品などの植物性食品に含まれる非ヘム鉄の吸収率は約5%程で、腸管で吸収されにくい性質を持ちますが、ビタミンCと一緒にとると非ヘム鉄の吸収率を高める事ができます。加えて肉や魚などと摂取するとタンパク質の働きによって吸収が促進されるので、食べ方にも注意しましょう。

 

【食べ方の例】

小松菜の和え物+カツオのたたき

ほうれん草のソテー+牛ステーキ   など

 

ビタミンCが豊富なキウイやオレンジ、付け合わせにブロッコリーを加えるのもOKですよ

 

意外にも日本人は食事から摂取する鉄の約8割が非ヘム鉄であると言われています。非ヘム鉄は吸収率が低いからといって、脇役にしてしまうのはもったいない!年単位で考えると非ヘム鉄も大切な供給源であると言えます。

 

その他にも、鉄の調理器具を利用すると食材に鉄分が染み込み鉄量がアップします。やかんでお湯を沸かす際や鍋で調理する時には入れるだけで鉄が染み出る鉄玉なども売られています。

 

貧血の種類の中でも特に女性に多い鉄欠乏性貧血

血液の成分は赤血球、白貧血で構成され、鉄は赤血球の血色素の「ヘモグロビン」や筋肉の「ミオグロビン」などの構成成分になります。ヘモグロビンによって運ばれる酸素と栄養素により、私達の細胞はエネルギーを生み出しています。

 

赤血球の寿命は約120日と言われ、毎日4〜5万個が脾臓で作り変えられます。ヘモグロビンの中の鉄は再利用されますが、中には汗や尿から排泄されてしまうものもあるためり、これを毎日の食事で補う必要があるでしょう。さらに女性は毎月の月経で鉄を失いますので、閉経までの数十年間は損失分も余分に鉄を意識して行く必要があります。

 

血液査値ではヘモグロビンの値が男性は13g/dl以下、女性は11g/dl以下になると貧血と判断されます。

 

様々な貧血に注意

貧血の原因として最も多いのは鉄欠乏性貧血です。貧血が進むと頭痛や動悸、食欲不振、だるさなどがの症状が現れますが、自覚症状が無い場合でも貧血が進んでしまう事があります。鉄が不足する事で起こる意外な症状には爪がもろくなる、食欲不振、偏頭痛など直接貧血とは関係のないような物も含まれます。

 

貧血の種類

貧血の割合は鉄欠乏性貧血が多いですが、その他にも貧血には様々な種類があり、注意が必要です。

 

スポーツ性貧血(溶血性貧血)

陸上競技など、スポーツをする際に床に足の裏をたたきつける事によって足裏の赤血球が壊されて微量の出血を伴う事で貧血になることがあります。女子アスリートなどは特に注意が必要です。

 

巨赤芽球性貧血(悪性貧血)

DNAの合成に必要なビタミンB12と葉酸が不足すると、赤血球の合成に影響を及ぼし貧血の原因となります。ベジタリアンの方は特に注意が必要です。

 

腎性貧血

腎不全や人工透析の患者は造血因子であるエリスロポエチンを作る機能が低下し、貧血をきたします。

 

特に鉄が不足しやすい時期

成長の過程で、特に鉄不足になりやすい時期をみていきましょう。

 

妊娠中・産後

赤ちゃんはお母さんのお腹にいる時に鉄をもらいますので、生まれて数か月は貧血になりません。しかし、お母さんが貧血になろうが、赤ちゃんからは容赦なく鉄が奪われてしまうので、妊娠をきっかけに貧血のリスクが伴います。妊娠・出産によって貯蔵鉄は大幅に低下してしまいますので、妊娠前から貯蔵鉄の指標であるフェリチンの検査をしておくのが安心です。

 

産後にお母さんのメンタルが崩れやすいのも鉄欠乏が原因である事が一因にあります。妊婦さんの鉄不足は低体重児の割合が増えるなどデメリットだらけです。お母さん自体に貧血があるまま妊娠、出産を経ると赤ちゃんも貧血症状になる事があり、母子の貧血のリスクを回避する為にも、妊娠中からも鉄分をしっかりと摂る必要があります。妊娠中や産後の貧血は産後うつのリスクが高まる事が分かっています。

 

また、第1子を出産後、貧血症状が改善しないまま第2子を妊娠すると母子共に貧血のリスクが高まり育児がしんどくなってしまう事も十分に考えられます。母子の貧血を防ぐ為にも、鉄は欠かせない栄養素です。

 

乳幼児期

赤ちゃんは生後6ヶ月まではお母さんから鉄をたっぷりともらって生まれてくるので母乳やミルクを飲んでいれば基本的には貧血の心配がありません。しかし、生後4ヶ月頃からは男女関係なく徐々に枯渇していき、生後6ヶ月〜1歳ごろまでに底をつき、1歳6ヶ月から2歳にかけてもっとも減る傾向にあります。

 

鉄が不足すると情緒や身体の成長に影響が出る事がありますので、離乳食から鉄分をとるようにしていきます。しかしながら食べる量が少ない離乳食期に鉄をチャージして行くのは至難の業ですので、鉄を補う為にフォローアップミルクや鉄分が強化されたヨーグルトなどをおやつに摂るなど対策をしましょう。

 

思春期

女の子は月経が始まる時期から鉄欠乏に注意が必要です。中学生、高校生は痩せている=かっこいいというイメージを持つ時期でもあり、ダイエットの為に炭水化物や肉を抜いたりすることも多いでしょう。これによりイライラしたり、部活や勉強に集中できないといった悪循環に陥る事もあり、重度になれば無月経や拒食症へと繋がる事があります。

 

食事では特に肉や魚から鉄を補うように心がけましょう。部活動や塾などで帰りが遅くなり、夕飯の時間が家族とバラバラになってしまうケースも増えてきます。家族は、子供に貧血やダイエットの怖さや、自分で健康的な食事を選ぶ大切さを伝えるのがおすすめです。また、部活で汗をかいたり運動量が多くなる男子も鉄不足に注意が必要です。

 

若い女性の痩せ願望の危険性については、こちらをご覧下さい。

シンデレラ体重って何?痩せすぎがもたらすリスクを考える

鉄の増やし方と相乗効果のある栄養素

鉄は単体では吸収されにくい栄養素です。もともとヘモグロビンの「ヘモ」とは鉄分、「グロビン」はタンパク質を意味しています。血液を作る為には「鉄」のみを意識するのではなく、ビタミンやミネラルも必要で、どれが不足しても貧血のリスクが高まってしまう事を覚えておきましょう。

 

セットで摂りたい造血に必要なビタミンB12と葉酸

ビタミンB12は造血作用に関わるビタミンです。他のビタミンと比べて必要量はわずかですが、骨髄で赤血球を作り出す重要な補酵素としての働きに関わっています。ビタミンB12は主にレバーやサンマ、アサリなどの動物性食品に含まれており、通常の食事で不足する事はありませんが、野菜中心の生活をしている人は注意が必要です。

 

葉酸はビタミンB12とともに新たな赤血球を作り出すために必須の栄養素で、「造血ビタミン」とも呼ばれています。ほうれん草から発見され、とくに緑黄色野菜に多く含まれています。

 

妊娠初期には食事+サプリメントで適切な量を摂取しておく事で胎児の神経管閉塞障害(水頭症や二分脊椎症)という先天性異常の発症リスクを軽減する働きがある事がわかっていますので、妊娠を希望するならば早めに葉酸を摂取する習慣をつけておきましょう。葉酸は菜の花や枝豆、モロヘイヤ、ブロッコリーなどに多く含まれています。ビタミンB12と葉酸はセットで摂る事で造血作用が期待できます。

 

鉄の吸収を阻害してしまう飲み物

コーヒーや緑茶に含まれるタンニンは非ヘム鉄の吸収を阻害してしまいます。貧血気味の方はノンカフェインのお茶やハーブティーに変えてみましょう。

 

鉄欠乏性貧血を予防する料理例

貧血対策の栄養の事まで考えるのが難しいと思いますので、実際にどのような料理が貧血対策になるのか見ていきましょう。1日の食事のトータルで鉄を意識してみましょう。朝、昼、夜にヘム鉄と非ヘム鉄を意識した食事を摂る事ができれば、1日に必要な10.5mgの鉄を概ねクリアする事が可能ですよ。

 

朝ごはんで鉄を補う

ただでさえ吸収率が悪く摂取しにくい鉄分ですので、朝ごはんを欠食してしまうと1日に摂るべき鉄分量を補う事が難しくなります。鉄を確実に補うには動物性のタンパク質を常備しましょう。

 

パンやごはんに加えて鮭や卵は理想的なメニューですが、毎日準備するのが難しい場合は温泉卵や鮭フレークなどを賢く活用し、家族皆で鉄を摂れるよう意識しましょう。食欲の無い学生や子供は、鉄が添加されたコーンフレークやヨーグルトなどがおすすめです。

 

ランチで鉄を補う

ランチは買って来て食べる、または外で食べる場合が多いのではないでしょうか。丼などの単品になるならば牛丼や、パスタならば牛肉のミートソースなど、鉄の量をしっかりと摂れるメニューを選びましょう。定食では魚や納豆など、できるだけバランスの良い食事を心がけます。どうしても鉄分が摂れそうにない時は、200㎖の豆乳で約2.5mgの鉄を摂る事ができますよ。

 

夜ごはんで鉄を補う

夜はメイン料理で鉄を増やしましょう。アサリを使ったパスタやカツオのタタキなど、簡単な物でOK。ここでも是非レバーを登場させましょう。味噌汁も鉄をアップさせる工夫ができます。緑黄色野菜の中でも鉄が多く含まれる小松菜や、大豆製品の厚揚げをメインに登場させましょう。

 

また、レバーの生臭さが気になる方は、調理前に塩でもみ込み、よく洗い流します。米のとぎ汁や牛乳に数時間漬け、さらに調理の際にねぎやにんにく、しょうがなどの香味野菜と組み合わせると気になる匂いを軽減できますよ。

※レバーはビタミンAが多く、乳幼児は摂りすぎるとビタミン過剰症を招くので注意が必要です。

 

栄養機能食品を賢く利用

鉄は吸収率が低く毎日の摂取が難しい栄養素という事が分かって頂けたかと思いますが、難しくて挫折しそうな時は鉄が添加された栄養機能食品や栄養補助食品を賢く活用しましょう。鉄が強化されたグミやウエハースなど、探してみるとラインナップは意外と豊富です。ドラッグストアでお気に入りの鉄商品を見つけて下さいね。

 

鉄のサプリメントや鉄剤は摂りすぎると細胞を酸化させて老化を促す作用がありますので、適切な量を守るようにしましょう。

 

まとめ

いかがでしたか?

 

貧血予防の為には食事からしっかりと鉄をはじめとする栄養をとる必要があります。特に女性は初潮から閉経までの数十年間に加え、妊娠・出産で多くの鉄を失いますので、その損失分も食事からカバーする必要があります。鉄は女性の活躍推進の為に必ず役立つ栄養素です。逆に言えば、鉄の不足で人生のパフォーマンスが下がってしまう可能性も大いにあるのです。鉄は吸収されにくいため毎日3食の食事で意識して摂る必要がありますが、鉄が満たされていれば今よりももっと元気に仕事を楽しみながら育児もこなせるようになるでしょう。

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執筆者プロフィール~日比野 真里奈~
管理栄養士/健康運動指導士

生活習慣病になる人を減らしたいという思いから管理栄養士を目指す。
病院や高齢者福祉施設で栄養指導や栄養ケアマネジメントの経験を積み、現在は離乳食、食育、
生活習慣病予防、女性の健康の分野で食事から健康をサポートする仕事に従事している。2児の母。