仕事に熱心であるのは、とても素晴らしいことです。でもそれは、心と体を蝕む働き方かも知れません。
仕事に熱心で責任感の強い人ほど気を付けたいのが「ワーカホリック」です。今回は、過度に働いている状態にないかご自身を照らし合わせながら読み進めてください。またワーカホリックな従業員がいる場合はどのように対処すれば良いのかを解説していきます。
ワーカホリックとは
ワーカホリックとは「仕事中毒」を意味します。「●●holic」とは「何かに依存している」状態を表す英単語で、ワーカホリック以外ではアルコール中毒:alcoholic、買い物中毒:shopaholicなどがあります。
単に熱心なのではなく、その対象物に依存している状態がホリックだと捉えてください。自分という存在が、その対象物によって成り立っている状態ですので、熱中よりもその度合いの高さがわかるでしょう。
ワーカホリックの場合であれば、何においても仕事を最優先させる状態であり、自分=仕事で成り立っているという認識になる状態です。
ある種の強迫観念でもあり「仕事をしないといけない」といった認識の下、過度に働いてしまいます。
ワーカホリックとワークエンゲージメントの違い
「熱心に仕事をする」ことにおいて、ワーカホリックとワークエンゲージメントに差異はないように感じます。しかし決定的な違いは「ポジティブであるかどうか」にあります。
ワークエンゲージメントが高い状態は、仕事をしたいという「want to」の状態です。対してワーカホリックは仕事をしなければならない「have to」の状態。この違いは大きく、「しなければならない」状態では、結果が伴わなかった場合「自分の頑張りが足らないから」と認識してさらに働く心理状態になってしまいます。
たとえ頑張って結果が伴ったとしても、心身が疲れきった状態になってしまっては元も子もありません。
「したい」状態で仕事をすることが健全にエンゲージメントの高い状態であると認識してください。
ただし、ワークエンゲージメントの高い状態を作りあげる際、ワーカホリックな状況を作り出しやすくなるとも言われています。
参考:厚生労働省「働きがい」と様々なアウトカムとの関係性についてhttps://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3_02.pdf
働きがいや従業員が職場に対する愛着を持てるようエンゲージメントを高めていくなかで、ワーカホリックな働き方を称賛しないように、企業は注意を払う必要があるのです。
ワークエンゲージメント及び従業員エンゲージメントに関してはこちらのブログをお読みください:
従業員エンゲージメントとは?混同しやすいワークエンゲージメントとの違いも解説
なぜワーカホリックになるのか?
ワーカホリックは誰でもなり得ます。とくに責任感が強く、役職の仕事を全うしようと真面目な頑張り屋さんほど、ワーカホリックになりやすい傾向にあります。
業務量が増え、トラブルがあり、部下からの報告や未来への視点など、仕事に真面目に取り組めば取り組むほど、仕事について考える時間が増していきます。この時点ではまだ、エンゲージメントの高い状態です。
しかしそれがいつしか、プライベートの時間を削ってまで仕事をするように変化してしまうと、ワーカホリックな状態に陥っているのですが本人は気付いていません。
次第に、何をしていても仕事のことばかりを考えるようになり、ブレーキが壊れた状態へと変化します。
プライベートにまで仕事を持ち込むので、家族や友人・恋人との関係は悪化します。このときすでにブレーキは壊れていますので、仕事をセーブするのではなくさらに仕事に打ち込むようになり、完全に仕事へ依存した状態へと変化してしまうのです。
心理状態からみたワーカホリック:回避依存症
ワーカホリックに陥る原因には、心理的な側面が大きいことがわかります。ワーカホリックになりやすい人の特徴を羅列するのは容易ですが、実はもっと心理的に根深い問題が隠れていることも否めません。
その1つに、回避依存症というものがあります。回避依存症とは「深い人間関係の構築を避ける人」を意味します。
徹底的に他人との距離を置きたがり、仲良くしたいけれども壁を作る気持ちが共存している状態です。
回避依存症には4つのタイプがあります。
① 肉体的にも精神体にも回避する:急な音信不通や束縛を極度に嫌う
② 物理的ではなく心を遠ざける:DVやハラスメントの傾向
③ 仕事や趣味の熱中:ワーカホリック・常に忙しいイメージを確立する
④ 支配型:相手に支配されないように個人情報を教えない
ワーカホリックになるのは、自分自身を常に忙しくすることで他人との関係性を深めることを回避している心理の表れだとされます。
また回避依存症は支配されることを嫌い、力を求める傾向にあります。そのため、仕事で成果を出し支配されないようにとワーカホリックへの道を歩むのです。
回避依存症になる背景には、幼少期の生い立ちが深く関係しているとされます。過干渉な親の元で成長する過程や、あるいは親と子の役割が逆転したような家庭で育つと、回避依存症になりやすいとされます。
少しでも身に覚えがあるのであれば、早めにカウンセリングや心療内科の受診をして心のケアをしましょう。
ワーカホリックから抜け出す方法
ワーカホリックは心身の不調を招きます。また、大切な人との関係性を構築できないため、互いに傷つけてしまう可能性も否定できません。
ワーカホリックから抜け出すには、まず自分がワーカホリックであることを認めることが大切です。「働きすぎ」のメンタルになっているなら、以下の具体策を参考にワーカホリックから抜け出す決意をしましょう。
他人から客観的な意見をもらう
自分自身のことは自分が最も分からないものです。仕事とプライベートを充実させていると思っていても、客観的には人とのコミュニケーションが希薄になっていると指摘がされるかも知れません。
自分自身は、どれだけ客観視しているつもりでも、感情的になったり自分の考えに固執したりする場合があります。とくに、ワーカホリックな状態のときは、メンタルが健康な状態ではない場合がほとんどですので、家族や友人など他者からの客観的な意見を貰い、改善点を受け入れることが心を守るためにとても大切なのです。
仕事と休日のメリハリを付ける
仕事と休日のメリハリをつけて、オンとオフをしっかり区切るようにしましょう。
ワーカホリックな状態の人は、休日であっても仕事のことを考える傾向にあります。強制的に「何も考えない状態」を作りだすことも、メンタルヘルスを守るために重要です。
どうしても仕事のことを考えてしまうのであれば、映画を見たり、マッサージを受けたりと「意識」そのものを他のものに移行できる時間を取り入れてみてください。
自分の気持ちと向き合う
ワーカホリックな状態になるまでなぜ仕事をしているのか、その真意を自分自身で確かめるのも大切です。
「仕事をしたいから」ではなく「なぜ」を深堀するように気持ちを確かめます。この作業は、人によっては辛く、目を背けたくなることかも知れません。
というのも、先ほど少し触れた「回避依存症」の特徴を認め、支配欲や恐怖心を認める行為にもなるからです。
ワーカホリックな症状から抜け出すには、こういった心理的な側面を受け止めることがステップになります。しかし重度のワーカホリックの場合、個人での改善は難しいものです。
自分自身の症状と向き合うのが辛い場合は、カウンセラーや心療内科を頼って、負荷を軽減しながら自分自身と向き合うようにしてください。
職場環境を変える
職場環境によっては、ワーカホリックな働き方が称賛されている場合があります。この場合、同調圧力によって健康的な働き方を得ることは難しいでしょう。
たとえば、長時間労働が「仕事を頑張っている人」というイメージが付いている職場環境であれば、職場がワーカホリックを推進しているようなものです。このような場合は、転職によって自身の労働環境を変えるのも心を守る選択の1つとなります。
長時間労働についてはこちらの記事をご覧ください。
長時間労働の対策ポイント!法定労働時間と残業代についてもわかりやすく解説します
ワーカホリックな従業員がいたら?
では最後に、職場にワーカホリックな従業員がいた場合は、企業としてどのように対応・対処すれば良いのかをみていきましょう。
ワーカホリックの正しい見解を持つ
ワーカホリックと従業員エンゲージメントとの違いは見分けがつきにくいものです。しかし「心理的な側面で無理をしていないか」を基準として見ると、ワーカホリックなのかエンゲージメントの高い状態なのかの違いが見えてきます。
まずは、企業として、ワーカホリックは心理的な作用が大きいことを認識してください。
よく仕事をする人に、責任感が強いからといって次々に大きなプロジェクトを任せていくと、どこかで糸が切れる可能性もあります。
ワーカホリックが疑われる従業員とは、面談をして日頃からストレスを抱えていないかを分析するようにしましょう。
業務量の確認をする
責任感が強い人ほど、業務量が多くても成し遂げるため、ワーカホリックが見えてきません。また、その責任感から他人に頼ることなく、1人で仕事を遂行するため、ワーカホリックへの悪循環となってしまいます。
ワーカホリックが疑われる従業員は、周囲と比べて業務量が著しく偏っていないか、また以前と比べて抱えている業務量が増えすぎていないかを確認してください。
「仕事の意味」を確認する
仕事の意味付けが「提示された目標をクリアする」になっているとワーカホリックに陥りやすくなります。もちろん、目標達成は大切ですが、それが本人にとって強迫観念となってしまうと「仕事をしたい」から「仕事をしなければならない」に変化するのです。
この状態で、うまくストレスを逃がせることができる性格であれば、ワーカホリックには陥りにくいでしょう。しかし、抱え込む性格であれば「達成のために働きたい」ではなく「達成させなければならない」と認識されてしまいます。
すると目標達成できなかった場合、「もっと頑張る必要がある」「自分の努力が足りていない」とさらに追い打ちをかけることになるのです。
たとえば「チームノルマの達成」=「報酬アップ」とすれば、報酬アップのために仕事を「したい」とエンゲージメントの高い状態に変化をさせることができます。これにより心的負担を軽減させることができるのです。
なぜこの仕事をするのか、目標達成の意味付けを持たせるように指導していくのが大切です。
ストレスチェックの導入
ワーカホリックな人は高度ストレス状態であることが少なくありません。完璧主義や責任感の強さといった性格は、慢性的なストレスや疲れ切った状態に繋がり、常態化してしまうといわゆる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」になり戦線離脱しかねません。
従業員のストレス状態を把握するために、ストレスチェックを導入しましょう。
ストレスチェックに関してはこちらのコラムをお読みください
ストレスチェックは50人以上の従業員を抱える事業所では義務ですが、50人以下の場合は努力義務となっているため、ストレスチェックを導入していない企業もあることでしょう。
従業員の心身を守ることは、一時的なコストがかかったとしても長期で見ると戦力確保のための投資です。どうしても難しい場合は、厚生労働省の簡易チェックなども応用しながら、ストレス状態の把握をするようにしてください。
厚生労働省:「5分でできる職場のストレスセルフチェック」https://kokoro.mhlw.go.jp/check/
ワーカホリックは自認しにくいもの!定期的なストレスチェックが必須
ワーカホリックな状態は、外から見ると「やる気」に映り、自分自身では常態化しているためストレス状態であることに気付きにくいものです。
たとえ身体に「肩凝り」「寝不足」「頭痛」というSOSのサインが出ていたとしても、「ただの疲れ」として捉えがちです。
そのため、ある日突然、めまいや突発性難聴といった「いつもの疲れとは違う」レベルに達して初めて、心的な負担が仕事によって引き起こされていたことに気付きます。
ワーカホリックを引き起こす心理的背景は、ただ「やる気」とか「完璧主義」といった単純なことではなく、深く追求すると該当者の生い立ちや家庭環境に遡らなければならないほど根が深いものです。
普段からよく働いている人にこそ、心理的な抑圧がないのかを判断し、適切な面談やストレスチェックを受けるように勧め、心と体を守るようにしてください。
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