皆さんも一度はどこかで「ウェルビーイング」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。では、その言葉の意味ってご存知ですか?
ウェルビーイングという言葉の響きから「何となく健康そう」というイメージはあると思います。
そこで今回は、ウェルビーイングはもちろん、企業にとって今とても大切なコンセプトである「ウェルビーイング経営」について焦点をあてて解説していきます。
ウェルビーイング(Well-being)とは?
まずはウェルビーイングが何なのか、その基礎部分を解説します。簡単に分かりやすく説明するとウェルビーイング=well-beingとは「良い状態にあること」を意味します。
【well】そのものの英単語としては、中学校で勉強したとおり「良い・上手・調子が良い」などです。
その状態をキープできているのが「well-being」。
つまり、心身が健全で調子が良い状態にキープできることが、ウェルビーイングだと捉えてください。良い状態である範囲は「精神的、身体的、社会的に良好」であることだと定義できます。
ウェルビーイング経営とは?
ウェルビーイングが「良い状態」なのであれば、ウェルビーイング経営は「良い状態をキープできる経営」ということがわかります。
ただ、これでは抽象的すぎますね。
ウェルビーイング経営とは、企業が自社の利益だけを追求するのではなく、従業員や従業員の家族が精神的、身体的、社会的に良い状態をキープできるように経営をしていくことを指します。
また、もう1つの考え方としては、企業が経営を通じて地域社会やコミュニティと繋がることをウェルビーイング経営という場合もあります。この場合は地域の活性化や持続的な成長を企業を通じて実現していくことを指します。
健康経営との違いは?
ここまでのウェルビーイング経営についての解説を読んで「それって健康経営とは違うの?」と疑問を持った方も多いでしょう。確かに、良い状態で業務を遂行して健康状態を保つことは、2つの経営戦略において違いはありません。
ウェルビーイング経営と健康経営の違いは、視点です。
健康経営は企業の視点で見据えて着地点に「生産性の向上」「企業価値の上昇」といった達成指数を掲げます。そのため、トップダウンでの配信が求心力を高める戦略です。
一方のウェルビーイング経営は従業員視点での達成を目標指数として掲げます。心身の健康の元に生まれる幸福を重要とし、その目的のために企業がキャリア形成やライフステージの変化に柔軟な対応をしたり、もっと大きく捉えるなら地域創生や雇用創生を生み出せる経営がウェルビーイング経営です。
ウェルビーイング経営の指標
健康経営と同様、ウェルビーイング経営は従業員の心身の健康状態を良好にすることで、包括的に企業力を向上させる効果があるとされます。
企業として注意しなければならないのは、ウェルビーイング経営を「起業力向上」ありきで目標数値を設定すると視点がずれるということです。ウェルビーイング経営を通じて従業員が「幸福」になるような基本となる指数を理解して推進していきましょう。
ウェルビーイングの指標①5つの要素
アメリカの世論調査及びコンサルティングを行っている「ギャラップ社」が定めた指数に「ウェルビーイングを構成する5つの要素」があります。
キャリアウェルビーイング
キャリアに対する幸福度をキャリアウェルビーイングと呼びます。「キャリア」とは仕事だけではなく、ライフステージの変化による私生活も含めてバランスが取れた幸福度、と捉えてください。
キャリアウェルビーイングはワークライフバランスが整っている状態で実現するとも言えます。
ワークライフバランスについてはこちらのコラムをお読みください
ワークライフバランスの取り組みは企業にもメリットがいっぱい!正しく理解しましょう
ソーシャルウェルビーイング
人間関係に関する幸福度をソーシャルウェルビーイングと呼びます。職場の人間関係だけでなく、友人や家族などプライベートも含めていかに幸福であるかが指標とされています。
心理学的な側面から捉えると、他者との信頼関係が構築できるかどうかは自己肯定感とも関係をしていることを無視できません。
内閣府が発表している「令和元年版子供・若者白書」によると、諸外国の若者よりも日本の若者は自己肯定感が低く、平成25年の同調査よりも「自分に長所がある」と答えた若者の割合も低下しているとのことです。
参考:内閣府「特集1 日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~|令和元年版子供・若者白書(概要版)」https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01gaiyou/s0_1.html)
同調査の概要において、日本の若者の自己肯定とボランティア意識ならびに社会参画の関連性も述べられていますが「必要とされている」という意識や「気付き」は現代の日本社会において年齢関係なく低い可能性は否定できないでしょう。
時間的な余裕や他者を受け入れる・気遣う精神的な余裕など、ソーシャルウェルビーイングの構築は自己と向き合うところから正常化すると言っても過言ではありません。
ファイナンシャルウェルビーイング
経済的な幸福度が、ファイナンシャルウェルビーイングです。安定した収入、資産の確保などがこれに相当します。
フィジカルウェルビーイング
身体・精神ともに良好な状態である指数をフィジカルウェルビーイングと呼びます。健康的に仕事へ従事することができ、精神的にも前向きでいられることがウェルビーイングな状態です。身体が健康であっても、精神面で前向きにいられていない場合は、フィジカルウェルビーイングが整っていないと言えます。
コミュニティウェルビーイング
地域社会での幸福度がコミュニティウェルビーイングです。職場、家族、友人や地域において、帰属意識があり、なおかつ幸福感があるかどうかが判断基準となります。
孤独感や不安、他者への依存および共依存が強い場合、コミュニティウェルビーイングが整っていない状態だと判断できます。
指標②OECDによる「良い暮らし指標」
OECD(経済協力開発機構)の「良い暮らし指標」は、GDPだけでみる豊かさではなく、雇用、収入、共同体など11の分野におけるインタラクティブな指標です。アメリカ、イタリア、フィンランドなどのOECD加盟国とブラジル・ロシア・南アフリカを加えた40か国の指標を比較できます。
国別の指標、と捉えると主語が大きくなりますが、注目すべきは「11の分野」です。住宅・所得・雇用・社会的つながり・教育・環境・市民参画・健康・主観的幸福・安全・ワークライフバランスが指標とされており、これらが幸福であることがウェルビーイングであると捉えることができます。
たとえば、企業として所得を安定させることが社会的な雇用の安定につながり、地域の安全を生む、という側面でウェルビーイング経営を考えることもできます。
指標③PERMA理論
アメリカの心理学者で、うつ病と異常心理学の世界的権威であるマーティン・セリグマン氏が考案したPERMA理論も、ウェルビーイングの指標として用いられます。
P:心身の健康
P=Positive Emotion、すなわち「ポジティブな感情」です。身体的、知的、心理的、社会的な豊かさのためにポジティブな感情を維持することが幸せの指標となります。
個人でできることは、家族や恋人との時間を充実させる、趣味を持つなどがあります。
企業として心身の健康維持を促進させるには、長時間労働の改善やメンタルヘルス不調者の早期発見などが該当します。
E:エンゲージメント
E=Engagement、すなわち「没頭できる状態」を指します。
個人でできることは、自分の強みを知る、好きな活動に参加するなどがあります。
企業として、仕事における従業員のエンゲージメントを高めるには、働きやすい職場環境の改善や、従業員満足度のアンケート調査などがあります。
従業員エンゲージメントに関してはこちらのコラムをお読みください
従業員エンゲージメントとは?混同しやすいワークエンゲージメントとの違いも解説
R:人間関係
R=Relationship、すなわち「良好な人間関係」です。英語の単語としては「恋人」の関係を表す単語でもあり、個人の会社以外での人間関係の重要性を含むと認識してください。
他者から大切にされている、と感じることの重要性をこの指標では伝えています。先述のとおり、現代日本の「課題」ともいえる自己肯定感の低さと、他者との関係構築がここでもやはり関わってきます。
個人でできることは、成功体験を得て自己肯定感を高めること、会社以外の社会的な繋がりを持つことなどがあります。
企業として良好な人間関係を構築できる場を提供するとすれば、バディ制度の導入や異業種交流会やセミナーの実施などが該当します。
M:モチベーションや目標
M=Meaning、すなわち「人生の意味」です。大袈裟で哲学的に聞こえますが、誰しも人生が有意義であることはとても大切なことでしょう。
短絡的な幸福ではなく、人生という長いスパンで幸福を捉え、「何を優先とするのか」を明確にするとウェルビーイングな状態をキープしやすい、ということです。
個人でできることは、新しいことに挑戦したり、ボランティア活動に参加したりなどがあります。
企業として従業員のモチベーションを維持させるには、キャリアアップ研修を行ったり、フレックスタイム制や在宅勤務の促進など働き方の多様性に対応することも有益でしょう。
A:達成感
A=Achievement/Accomplishment、すなわち「達成感」です。目標を立てて取り組み、達成した際の幸福度が安定した生活基盤を維持すると考えます。
個人でできることは、期限を付けて目標設定をし、課題をクリアしていくことがあります
。
企業として従業員に達成感を持ってもらうには、資格取得制度の導入や報酬の改善、ファイナンシャルプランナーによるライフプラン研修などがあります。
ウェルビーイング経営は幸福度とともにある
価値観の多様性とともに、人が求める「幸福」も形を変えてきています。ひと昔前であれば当たり前のように「良い企業に就職して結婚して家庭を持つこと」を男女とも幸福として受け入れてきましたが、それが時代の変化とともに乖離してきています。
幸福は人それぞれであるにもかかわらず、自己の幸福と存在を肯定的に捉えることができない、この心理状態に多くの人が陥っているようです。
自己肯定ができない、というのはウェルビーイングにおいて最も注視すべき点です。
企業の戦力としても懸念すべき点が出てきます。
たとえば大きなプロジェクトを任されたとしても、自己肯定感が低いと「挑戦しよう」という気持ちではなく「失敗してしまう」「自分にできるはずがない」とネガティブな自己暗示をかけてしまう可能性があるのです。
自己肯定感を得られない背景は人それぞれです。
従業員がウェルビーイングな状態を維持するため、企業としては多角的にウェルビーイングが損なわれている要因を理解する必要があるでしょう。まずは経営陣が「自己の幸福」について自己探求するのが、ウェルビーイング経営の第一歩だと考えることもできるのです。
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