今やどの業界においても人材不足は深刻な問題です。少子高齢化が進むなか、優秀な人材を確保することは、企業の利益を死守するための戦略といっても過言ではありません。
そこで注目がされているのが「従業員エンゲージメント」です。
しかしこの従業員エンゲージメント、言葉の定義が難しく、しばしば他の用語と混同されて用いられていることがあります。
今回は従業員エンゲージメントの定義や、従業員エンゲージメントと混同されやすい言葉との違い、従業員エンゲージメントが「低い」と指摘されている日本で「なぜ従業員エンゲージメントが低いのか」とその背景などを詳しく解説していきます。
従業員エンゲージメントとは
輝く夜景の見える素敵なレストラン、小さな箱から取り出されるダイヤモンドの指輪。一生添い遂げるエンゲージメントをあなたに…いえ、その「エンゲージメント」ではありません。
英単語の意味としてはもちろん「婚約」がありますが、ビジネスにおいての「エンゲージメント」とは「契約」「誓約」などの意味になりす。
とりわけ人事で使われる従業員エンゲージメントとは「企業への愛着」といった意味を有する言葉です。
「それって忠誠心では?」と思った方もいることでしょう。では、従業員エンゲージメントとはどういった意味なのか、また混同されやすい言葉もあるので、違いを明確にしていきましょう。
従業員エンゲージメントの定義
従業員エンゲージメントとは「組織に貢献したい」と自発的に強い意思を持つ状態のことを指します。先ほど「企業への愛着」とお伝えしましたが、「愛着」とは深く心が引かれ、その対象から切れないことを意味します。
愛着は強制的に指図をされて生まれるものではありません。
「あなたは今日からこの会社に愛着を持ちなさい!」と言われても、深く心が引かれる要因がないと自発的にはエンゲージメントできないものです。
従業員エンゲージメントとは、自発的に抱く会社への愛着であると認識してください。
従業員エンゲージメントを構成する3つの要素と高める鍵
従業員エンゲージメントは、理解度・共感度・行動意欲の3つの要素で構成されています。
従業員エンゲージメントを構成する要素①企業理念の理解度
従業員が企業理念を理解しているかどうかは、従業員エンゲージメントを構成する大きな要素です。どれだけ「会社に愛着を持ちたい!」と奮起しても、企業理念を理解し飲み込むことができなければ、いずれ会社に対しての疑問が生まれてくることでしょう。
すなわち、企業理念やビジョンを従業員に浸透させることが、従業員エンゲージメントを高める大切な要因となるのです。
従業員エンゲージメントを構成する要素②会社への共感度
企業理念やビジョンを理解するだけでなく、どこまで共感ができるかも、従業員エンゲージメントを構築する要素になります。
理解と共感は違います。あらゆる場面において、理解はできるが共感はできない、という経験をしたことがある人も多いはずです。
組織に貢献したい!という自発的な意欲を引き出すには、企業理念やビジョンに共感できるように、従業員と直接的なコミュニケーションを設けることが有効になります。
従業員エンゲージメントを構成する要素③行動意欲
従業員エンゲージメントで鍵となるのは「自発的」であることです。企業への貢献を自発的な行動によって起こせる状態は、企業理念やビジョンを理解し、かつ心身ともに健全であるからこそ起こせる行動です。
「意欲」は「正当な評価」なしに起きないことを、多くの社会人が理解しています。どれだけ頑張っても正当に評価されない状態が続けば、組織に見切りをつけても不思議ではありません。
従業員に行動意欲を沸かせるためには、正当な人事評価や職場環境の改善などを提供し、会社に貢献できる満足度を上げていくことが従業員エンゲージメントを高めていくコツになります。
職場環境改善についてはこちらのコラムをお読みください。
【働きやすい職場で人材の定着を目指す!職場環境改善を正しく遂行するポイント】https://www.lifesupport-service.com/blog/20230120/
用語解説:従業員エンゲージメントと混同しやすい言葉たち
従業員エンゲージメントという言葉の他に、似たような意味を有する用語がたくさんあります。従業員エンゲージメントを正しく理解するために、それぞれの違いについて詳しく解説いたします。
ワークエンゲージメントとの違い
従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントは、しばしば混同をされて使われる言葉です。
似て非なるもののこの2つですが、ワークエンゲージメントとは「従業員個人の仕事に対するポジティブな心理状態」を指します。「熱意・没頭・活力」を有して自発的に仕事に取り組み、仕事に対して持続的に抱かれるポジティブな感情です。
対して、従業員エンゲージメントは、先述のとおり「企業への愛着」です。
勤めている企業で長く働きたい意欲のもと、仕事に対して満足感を持ちつつも向上心を持ち合わせています。
そのため「求められる役割以上の仕事を自発的に行う」行動が、従業員エンゲージメントの要素として含まれるとされることもあります。
従業員満足度との違い
どれだけ従業員が満足しているか、においては従業員満足度と従業員エンゲージメントは同じです。しかしながら決定的な違いは「企業への愛着があるかどうか」。
従業員満足度の指数は、報酬・仕事内容・職場環境など「どれだけ満足できているのか」が焦点となります。
この点において「会社の環境や給与に満足はしているが企業理念に共感できない」ことが成り立ちます。この場合、従業員満足度は高いが従業員エンゲージメントが高いとは言えない、となるのです。
極端な例をあげれば、会社に貢献する気はないが人間関係が良いので従業員として満足している、こともあり得ます。このような従業員ばかりでは企業の業績が伸びるかは疑問です。
対して従業員エンゲージメントは「企業にとって自発的に貢献することで満足を得る状態」です。その結果、従業員エンゲージメントは企業と相互作用し、業績向上へと繋がります。
モチベーションとの違い
いつの間にか「モチベーション」という単語も日本語のフリをするようになり、当たり前に使われていますが、実際に意味を説明できますでしょうか。
そもそも「MOTIVATION」は「motivate=動機を与える」の名詞形です。何かをする動機にあたるもの、ということで「やる気」と訳されています。
ですので、モチベーションが高い状態になるには、その動機となるものが必要です。
それは給与かも知れませんし、あるいは個人的に上司や同僚との人間関係が影響しているかも知れません。仮に給与が動機であった場合、今の職場よりも良い給与提示があれば、転職が選択肢としてあり得ます。
モチベーションが高いからといって、企業に貢献したいのかどうかはイコールになりません。従業員エンゲージメントとは明らかな違いがあるのです。
忠誠心との違い
「組織への貢献」という響きから、忠誠心と混同する人も少なくありませんが全く異なるものです。組織に対する忠誠心は、残念な側面に目を向けると「NO」を言えなくさせる性質を持ちます。それは企業の発展を促す作用ではないのです。
日本企業において「年功序列」「体育会系」は今や悪しき習慣として是正が叫ばれていますが、やはり長く続いた習慣を一瞬にして取り除くことは難しいものです。悪しき忠誠心は上司・部下という関係から発生することが少なくありません。
もちろん、上司から仕事外で学ぶことも多いため、上司と近しい距離でいる事の全てが悪とは言い切れません。しかしながら忠誠心を基軸とした上司・部下の関係では、ときに行き過ぎてしまい、自発的な行動を抑制してしまいます。
たとえば、上司との付き合い。イヤイヤながらも忠誠心で夜遅くまで付き合ってしまい、NOと言えない日々がプレゼンティズムやアブセンティズムに繋がってしまう。
あるいは、プロジェクトにおいて意見を発したいけれども、上司の顔色を見て意見を言えなくなってしまう、忠誠心がありすぎて上司からの指示がないと
動かなくなってしまう、など、企業成長とは真逆の方向性へ転ぶことも考えられるのです。
企業への愛着は盲目な忠誠心とは全く異なります。忠誠心だけでは、従業員エンゲージメントの要である「自発的行動意欲」が削がれてしまうのです。
従業員エンゲージメントが高い状態とは?
従業員エンゲージメントが高いとは、どのような状態を指すのでしょうか。また、日本は従業員エンゲージメントが低いと言われていますが、なぜそのような状態になるのかを考察していきます。
従業員エンゲージメントが高い状態とは?
従業員エンゲージメントが高い状態では、相互作用において従業員だけではなく企業も成長をします。
従業員だけが満足をして企業の業績や企業価値があがらない、あるいは企業だけが間違った従業員エンゲージメントを高める取り組みをするのではなく、双方が成長をしていくのが従業員エネゲージメントの高い状態です。
なぜ日本の従業員エンゲージメントは低い?
日本において従業員エンゲージメントが注目をされるようになったのは、アメリカのある調査結果が影響しています。
2017年にアメリカの世論調査及びコンサルティング業を行うギャラップ社が発表した「State of the Global Workplace」の1項目で従業員エンゲージメントが日本は6%と低い水準であることが発表されたのです。
ちなみに、2022年の最新版では、悲しいことに1%下がって5%となっています。
※2022年版State of the Global Workplaceはギャラップ社のサイトからPDFでダウンロードが可能です:「State of the Global Workplace Report – Gallup」
https://www.gallup.com/workplace/349484/state-of-the-global-workplace-2022-report.aspx)
しかし、こういった国際的な調査においては、日本人独特の「気質」も考慮する必要があります。
国民性で比較をすれば、「今満足しています!」「今ハッピーです!」と堂々と言う日本人は、諸外国に比べると少ない傾向にあります。ですので「本音と建て前」の文化において、この調査がどこまで正確な従業員エンゲージメントのスコアを割り出しているのかいささか疑問でもあります。
とはいうものの、このギャラップ社の調査が一石を投じたのは事実でしょう。
日本において従業員エンゲージメントが低い理由として「ジョブ型雇用ではないから」が理由に上がることがあります。
しかしこれもまた疑問です。
なぜなら、厚生労働省の発表している令和元年の調査にて「現在の職場での満足度」は「雇用の安定性」が正社員で61.4%、非正規雇用者に関しては33.1%、次いで「仕事の内容・やりがい」が正社員で58.8%、非正規雇用者も57.5%と高く、仕事内容に不満があるわけではないことがわかります。
逆に同調査にて、最も満足度が低かったものはというと、「人事評価・処遇あり方」が正社員・非正規雇用者ともに16%程度、次いで「教育訓練・能力開発の在り方」が正社員で19.1%、非正規雇用労働者に至っては4.2%となっています。
参考:厚生労働省「令和元年就業形態の多様化調査(概況):https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/19/dl/02-03.pdf 」
この調査結果に基づくと、従業員エンゲージメントの要素である「行動意欲」が人事評価の不満によって引き起こされている可能性があると考察できます。
また、スキルアップしたくても教育訓練等の取り組みがない場合、現状に不満が出てきて会社へ貢献する意欲がそがれてしまうことも考えられます。
これらの点から考察すれば
〇仕事内容には満足しているが人事評価に不満があり組織に貢献する気が起こらない
〇組織に貢献したいがスキルアップする取組がない
といった、従業員と組織の「認識のねじれ」が浮き彫りになってきます。
従業員エンゲージメントを高めるためには、まず従業員の声を聞き現状を拾いあげて、改善へ取り組むことが大切なのです。
従業員エンゲージメントの高さは企業価値にプラスをもたらす
企業にとって最大の痛手は、意欲的で優秀な従業員が離職することです。自発的に組織に貢献する従業員を守るためには、何を改善していけばよいのか、それは企業によって異なるため答えはさまざまでしょう。
企業理念に理解・共感し、従業員と企業が相互作用で成長していく。従業員エンゲージメントを高水準に保つために、エンゲージメントを低下させている根本原因を改善していきましょう。