肝炎とはなんらかの原因で肝臓の細胞に炎症がおこり、細胞が破壊されていく疾患です。肝炎になる原因で一番多いのは意外にも肝炎ウイルスによるものです。今回のコラムでは肝炎ウイルスの種類と肝炎ウイルスから身を守るポイントをお伝えします。
肝臓の働き
肝臓は500以上もの化学反応を行う体で最も大きな臓器で、成人男性で約1,5㎏、成人女性で約1,3㎏あり、体重のおよそ50分の1にあたります。肝臓は栄養の代謝、胆汁の合成、解毒物質の解毒といった生命維持に欠かせない重要な働きをしています。
肝臓の働きと食事に関してはこちらをご覧下さい。
肝炎ウイルスの種類と感染経路
アルコール性肝炎や脂肪肝など肝臓の病気は様々ですが、意外にも日本人に最も多いのは「ウイルス性肝炎」です。多くの場合、肝臓病は何らかの原因で肝炎を起こす事から始まります。
肝炎の主な原因は肝炎ウイルスによるもので、肝炎は急性と慢性の2種類に分けられます。6ヵ月以内に炎症が始まるものを「急性肝炎」、6ヵ月以上の長期の炎症のものを「慢性肝炎」といいます。
慢性肝炎
慢性肝炎は炎症が6ヵ月にわたって続いている状態です。肝臓は手術などで6~7割切除しても半年ほどでもとの大きさに戻る事ができるほど再生力が高い臓器と言われています。そのため、肝細胞が死滅して残された肝細胞が大きくなったり細胞分裂を行う事で組織や機能が保たれる仕組みになっています。
肝臓には神経が通っていないので痛みを感じる事がなく、肝臓で異変が起こっていても全身のだるさや食欲不振程度です。このような理由から患者さんが病気を自覚するのは難しいとされています。しかしこの間にも肝臓には慢性的なダメージが蓄積されており、傷を修復し肝細胞が再生する時に作られる線維成分が蓄積し、肝臓の限度を超えて機能が低下すると肝硬変などの深刻な症状が現れます。
加えて長期間の肝臓病で発症しやすいのが肝がんです。やっかいな事に肝がん自体にも自覚症状がほとんどなく、一度治療を終えた後も再発しやすいの事が特徴です。慢性肝炎から肝硬変を経る事なく肝がんを発症することもありますので、定期的な検査などで早期発見を心がけましょう。
B型肝炎とC型肝炎は慢性化する可能性が高く、特にB型は出産時や乳幼児期の感染が多くなっています。
急性肝炎
急性肝炎は自分の免疫が肝炎ウイルスに感染し肝細胞を攻撃して、炎症を起こしている状態です。急性肝炎の症状は発熱や頭痛、だるさ、食欲不振などですが、ほとんどのケースはある程度の攻撃で肝炎ウイルスがなくなり治癒し、肝臓の組織が再生して治癒して行きます。
急性肝炎の多くが自然と治癒しますが、問題となるのが重症化、劇症化する場合です。劇症化とは肝炎ウイルスに感染した肝細胞が多すぎるために一気に肝細胞が死滅してしまう事を指します。急性肝炎の1〜2%が急性肝不全(劇症化)に進んでしまうとされ、その原因の9割がウイルス性肝炎で、なかでも多くを占めるのがB型肝炎とC型肝炎です。
急性肝不全は死に至る事もある深刻なものですので、早急な治療が必要となります。急性肝炎を起こす肝炎ウイルスの種類はA、B、C、D、Eの5種類です。その中でも日本人に多いのがB型肝炎とC型肝炎です。それぞれの型の特徴を見ていきましょう。
A型肝炎
A型肝炎は、A型肝炎ウイルスに感染する事で発症します。A型肝炎ウイルスの感染経路は主に2つです。1つは口から食べ物や飲み物と共に摂取し、かきなどの生の魚介類や衛生状態の悪い土地の生水から感染するケースと、もう1つは性行為によるものです。
かつては日本でも広く流行していましたが、近年は衛生環境が整備され感染の広がりが制御されています。しかし、北米や欧州、オーストラリア、ニュージーランド、日本を除く多くの国では感染の可能性が高いとされていますので注意が必要です。A型肝炎ウイルスで発症するのは急性肝炎で、慢性化する事はありません。日本では急性肝炎の約4割がA型肝炎によるもので、年間5〜20万人がかかるとされています。A型肝炎ウイルスは85℃以上で1分以上加熱すると不活化するため、食材の十分な加熱調理と食事の前の手洗い、消毒などが予防に役立ちます。
A型肝炎ワクチンは希望した方のみ受ける事ができる任意接種であり、発展途上国における感染の危険性が高いため、そのような地域へ行かれる際に推奨されています。
B型肝炎
B型肝炎はB型肝炎ウイルスに感染する事で発症する肝炎です。感染力がとても強く、主に血液や体液などを介して感染し、ウイルスを消失させる事が難しい肝炎です。輸血による感染は献血後の血液の検査が行われるようになったため現在はほぼ起こらなくなりました。
妊娠中に子宮内で母子感染する事がありますが、妊婦健診で行う検査で陽性だとわかっている場合、出産後に新生児に免疫グロブリンやワクチン接種を行う事で予防できるとされています。B型肝炎ウイルスの感染経路には、垂直感染と水平感染があります。
・垂直感染
垂直感染は母親がB型肝炎ウイルスに感染していた場合に出産時の血液から赤ちゃんが感染するもので、母子感染とも呼ばれます。赤ちゃんはB型肝炎ウイルスに感染しても特に反応はなく、そのまま何の症状も出ない無症状キャリアになり、思春期くらいまでは健康に問題が出る事なく過ごします。
・水平感染
水平感染とはB型肝炎ウイルスに感染している人の血液や体液に触れる事で感染するものです。カミソリや歯ブラシ、注射器の共用などが原因となり、消毒が不十分な器具を使用したピアスの穴あけや刺青、幼児へ口移しで食べ物を与える事で感染する事もあります。
また、近年増加傾向にあるのが避妊具の不適切な使用による性交渉や不特定多数との性交渉による感染です。B型肝炎ウイルス感染はワクチンによって予防が可能ですので、パートナーが感染者の場合や感染リスクの高い医療従事者などはワクチン接種が勧められます。B型肝炎ワクチンは2016年より任意接種から定期摂取に変更され、通常0歳児で摂取されます。
C型肝炎
C型肝炎ウイルスは、感染者の血液や体液に接する事で感染します。C型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスなどと比べて感染力は強くなく、日常生活の中で感染する事はありません。
更に現在C型肝炎ウイルスの感染の原因として最も多い感染源は「不明」とされており、感染した時期がわからない事も多いです。C型肝炎の症状は軽めで、まったく症状の出ない感染も多く、感染に気づかない原因となっています。無症状の人を含めると日本での感染者は150万〜200万人とされており、感染しても自覚症状はほとんどありません。7割が慢性肝炎へ移行、30年で肝硬変に、40年で肝がんになる確率が高いとされています。
・慢性化しやすいC型肝炎
C型肝炎から急性肝炎を発症しても約20〜40%は自然治癒し、C型肝炎ウイルスも完全に排除されます。しかしながらC型肝炎で問題視されているのは慢性化しやすい事です。
C型肝炎ウイルス感染者の約60〜80%が気づかないうちに慢性肝炎に進行し、肝硬変や肝がんを合併するケースも少なくないのです。病気の進行を加速させない為には不適切な生活習慣を改める事です。飲みすぎ、食べ過ぎ、喫煙、運動不足は改善の必要があります。
D型肝炎
D型肝炎はD型肝炎ウイルスによって感染する肝炎で、D型肝炎ウイルスは増殖する際にB型肝炎ウイルスが必要なため、常にB型肝炎ウイルスとともに感染するか、B型肝炎ウイルスキャリアの人が感染します。ただし、日本ではごくまれな事でD型肝炎ウイルスへの特別な治療は無く、B型肝炎が完治するとD型肝炎も治るため慢性化する事も少ないです。しかしながらB型肝炎単体よりも重症化しやすいので注意が必要です。
E型肝炎
E型肝炎はE型肝炎ウイルスに感染する事で引き起こされます。多くは1ヵ月程度で治癒してウイルスも排除され、慢性化する事はほぼありません。しかし、が急性肝炎から劇症化する事もあり、1〜2%が死に至ります。妊婦は重症化しやすいので注意が必要です。ワクチンは海外で承認されていますが、日本にはまだありません。
B型肝炎ウイルスの治療費補助
B型肝炎の治療にかかる医療費の負担を軽減するため、厚生労働省と各都道府県知事はインターフェロン治療および核酸アナログ製剤治療について医療費の自己負担額(月額)を世帯の所得額に応じて1万円または2万円に軽減する助成制度を設けています。この制度は全国一律に実施されている制度ですので、申請してきちんと治療をうけましょう。
肝炎ウイルスから肝臓を守る方法
肝炎ウイルスの治療には生活習慣病の改善も重要です。治療中は特に、治療の効果を上げるためにも働き者の肝臓を労わる生活を心がけましょう。禁酒、禁煙は大前提です。
肝疾患の時の食事
基本的に肝臓病の治療では食事制限はありません。食事療法としては適切なエネルギー摂取とビタミン、ミネラルをたっぷりと摂ります。
注意が必要なのは急性肝炎の場合、タンパク質の消化が肝臓への負担となるため1日60g以下の適正量を保つようにします。また、C型肝炎ウイルスに感染している人は肝臓に鉄が過剰に蓄積してしまう事が分かっており、鉄分の多い食材の過度な摂取はC型肝炎を悪化させる恐れがあります。鉄を含む食材には亜鉛や銅など、体の機能に欠かせない栄養素も含まれています。鉄の制限を行う場合はその他の必要な栄養素が不足しないように医師や管理栄養士に相談しましょう。
水分については基本的に制限はなく、水分補給が足りない事の方が問題になります。食べ物からの水分も加えて1日2リットルを目標にこまめに摂るようにしましょう。
肝疾患の時の運動
肝硬変になると、肝臓の機能の低下により体内のタンパク質やグリコーゲンが減り、筋肉が衰えやすくなり、サルコペニア(加齢による筋肉量の減少および筋力の低下)が起こりやすくなります。昔は肝臓の病気は安静にするのが良いとされていましたが、肝臓が悪い人ほど医師の指導を受けて適度な運動をする事が悪化を止める鍵となります。
まとめ
いかがでしたか?
肝臓は多少の障害では自覚症状が現れにくいため沈黙の臓器と呼ばれていますが、その高い再生力の代償として病気に気づくのが遅れてしまう事があります。肝炎ウイルスに感染しただけで症状を引き起こす事はあまりありませんが、軽い炎症であっても慢性的に続くようになると肝細胞が障害と再生を繰り返し、やがて肝臓の機能が損なわれて行きます。
繰り返しになりますが、肝硬変が進むほど肝がんへと進行しやすいですので注意が必要です。
各種ウイルスの感染経路に注意すると同時に、必要な予防接種を賢く活用し、肝炎ウイルスから身を守りましょう。社員の健康管理はライフサポートサービス株式会社へご相談下さい。
執筆者プロフィール~日比野 真里奈~
管理栄養士/健康運動指導士
生活習慣病になる人を減らしたいという思いから管理栄養士を目指す。
病院や高齢者福祉施設で栄養指導や栄養ケアマネジメントの経験を積み、現在は離乳食、食育、
生活習慣病予防、女性の健康の分野で食事から健康をサポートする仕事に従事している。2児の母。