2025年歯科健診義務化?歯と健康について考えてみましょう

歯科器具

人生100年時代、いつまでも好きなものを食べて、元気に楽しみたいですよね。

 

歯の健康は全身の健康と深くかかわっています。

歯の健康維持はこれからの少子高齢化にとって重要な課題の1つ。その重要性から、国による歯科健診の義務化が2025年より導入が検討されています。

 

今回は老後の健康維持に大切な歯のお話です。ぜひ読み進めてください。

 

歯科健診の義務化が重要視されている背景

日本における歯科健診は乳幼児健診時の1歳6か月と3歳、そして全学年において高校三年生まで義務化されています。

 

しかし、高校卒業を迎えると歯科健診は義務ではなくなり、大人になってからは「有害な業務に従事する労働者」のみが義務化されています。

 

大人になってから「歯医者さんへ行く」のは痛みや詰め物が取れたなど何かしらの理由があってからと言う方も少なくないでしょう。

 

しかし歯周病や虫歯といった身近にある口腔内のトラブルは、初期段階では自覚がないことがほとんどです。厄介なことに、こういった歯の身近な疾患は、放置することで歯を失う危険性だけではなく、骨格の変形、脳梗塞やアルツハイマー病なども引き起こす可能性があると言われています。

 

人生100年を健康に過ごすため、また事前に大病を防いで医療費を削減させるためにも、今国民皆歯科健診義務化が重要視されています。

 

 

歯科健診義務化:有害な業務に従事する労働者への健診

大人になってからの歯科健診で、一部義務化されているのは「有害な業務に従事する労働者」への歯科健診です。この義務化は、2022年から施行された労働安全衛生規則によって全ての事業所に対し義務化されました。

 

改定前までは、「有害」の対象となる業務に従事する労働者が常時50人以上の事業所のみに歯科健診は義務化されていました。すなわち、50人以下の事業所には報告義務がないため、2022年の厚生労働省の調査によると50人以下の事業所での歯科健診実施は22.5%のみという低い水準となっていたのです。

(参考;「有害な業務における歯科医師による健康診断等の実施の徹底について」https://www.mhlw.go.jp/content/000760800.pdf

 

こういった背景を受けて、さまざまな化学物質を取り扱う現場において、50人という人数制限を撤廃し、全ての事業所に歯科健診が義務化されることとなりました。

 

対象となる「有害物質」とは?

特定の有害な物質を取り扱う従業員は、先述のとおり歯科健診が義務化されています。

 

対象者となるのは以下の物質を取り扱う労働者とされます(労働安全衛生法66条)

 

〇塩酸・硝酸・硫酸・亜硫酸・弗化水素・⻩りんならびにその他歯や身体に有害な物質のガス・蒸気・粉じんを取扱う業務に常時従事している労働者

 

対象となる場合、雇い入れ時、対象業務への配置換え時、そして6か月に1度の歯科健診が義務化されます。

 

歯科健診義務化:国民皆歯科健診の導入

現段階では限られた業務についている人に対してのみ歯科健診は義務化されています。ではいつから歯科健診が全ての国民に義務化されるのでしょうか?

 

今後日本政府はが2025年を目途に、全ての人を対象とした国民皆歯科健診の導入を目指しています。

 

費用や周期など、どういった内容になるかは現段階で発表はされていません。しかしながら、企業に勤める「現役世代」の歯の健康を維持する目的として、国が企業に対して歯科健診の義務化を進めていく方針の様子です。

 

 

8020ってご存知ですか?

8020(ハチ・マル・ニ・マル)運動は、「80歳になっても20本以上の自分の歯を保とう」という目標を掲げた健康運動です。

日本歯科医師会が1989年に始めたこの運動は、高齢化社会において健康な歯を保つ重要性を訴えています。

厚生労働省の「令和4年歯科疾患実態調査」によると、75歳以上85歳未満で8020を達成している高齢者は51.6%とのこと。

参考:厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」https://chmhlw.go.jp/stf/newpage_33814.html

 

半数以上は達成できているものの、逆を言えば半数ほどはまだ未達成ということになります。

 

高齢になっても自分の歯を保つことで、食事を楽しむ能力や、健康寿命を延ばすことに繋がる上に、こういった「楽しみ」が継続されることはメンタルヘルスのバランスを保つことにも繋がります。

 

歯を失うことで食生活が制限されてしまうと、最悪の場合は栄養不足や消化不良から全身の健康に悪影響を与えるリスクが高まります。るため、そのため高齢化社会の今、定期的な歯科健診が重要視されているのです。

 

なぜ歯科健診が大事なのか?

「8020」と言われるほど、長寿と口内健康とは深い関わりがあります。現段階では、有害な業務に携わっていない限り、長寿を前とした中間の年齢層には歯科健診が義務化されていないことになります。

すなわち、自分で意識しない限り、あるいは症状が出ないかぎり歯科医院へ行かない、ということです。

 

それを今、国民皆歯科健診義務化として国が推進しているのは、それだけ口内の健康が重要視されているからということでしょう。

 

では、具体的には歯科健診でどういったメリットがあるのでしょうか。

 

早期発見ができる

歯科健診の義務化は、予防歯科の観点から非常に重要です。

予防歯科とは、歯周病や虫歯といった口内トラブルを未然に防ぐ「予防」を目的とした歯科の考え方を指します。

 

早期発見ができることで、治療が必要になる前に問題を解消できるため、長期的には痛みや負担を軽減し、治療費を抑えることにもつながります。

 

歯科健診の義務化は個人の健康を守るのはもちろん、医療費の削減や全体的な健康水準の向上にも貢献すると言って過言ではないでしょう。

 

歯は元に戻らない…

風邪をひいたら安静にしていることで身体は元に戻ります。骨折すれば固定しておくことで骨は元に戻ります。しかし歯は、一度悪くなってしまうと自然に元の状態に戻ることはありません。

虫歯が進行して歯が欠けたり、歯の神経が損傷したりする場合、自己修復は不可能であり、適切な治療が必要です。

 

神経を取った歯はその後血液や栄養が不足することで脆くなりやすく、時間の経過とともに黒っぽく変色する場合もあります。

 

定期的に歯医者でチェックを受けることで、虫歯や歯周病などのトラブルを早期に発見でき、深刻な問題になる前に治療が行えます。

 

特に痛みが出る前の段階での診断と治療は、時間的にも金銭的にも負担が少なく済み、長期的な歯の健康を保つための鍵なのです。

 

 

実はとても多い歯周病患者

歯周病はよく聞く病名ではないでしょうか。歯の病気の代表ともいえる歯周病、歯と歯茎の境目に溝ができ、深くなった溝に歯垢が溜まり、歯茎の腫れを招いて更なる溝を深め、歯肉の破壊がされていきます。

 

この溝は「歯周ポケット」と呼ばれていますが、4mm以上に歯周ポケットを持つ人の割合はなんと全体の47.9%にも上るとのこと。

(参考:厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査の結果(概要)」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33814.html

 

歯周病は軽度だと自覚がないため、身近な病気であるにも関わらず発見が遅れがちな歯の病。放置していると歯が抜ける結果となりかねませんので、自覚はなくても歯の健康チェックは必須なのです。

 

 

「歯」は身体の健康に影響する

虫歯や歯周病だけが歯が原因で起こる体調不良ではありません。歯の状態が良くないことで、さまざまな影響が身体に出てしまいます。

ここからは、歯の状態が理由で引き起こされる代表的な疾患並びに体調不良の数々を解説していきます。

 

顎関節症

歯が不健康な状態が続くと、顎関節症を引き起こすリスクが高まります。顎関節症は、顎の関節や筋肉に異常が生じることで、顎の痛みや開閉時の異音、咀嚼時の違和感などを伴う病気です。

 

特に、虫歯や歯周病によって噛み合わせが悪くなると、顎の関節に過度な負担がかかりやすくなります。噛み合わせがずれることで顎の筋肉が緊張し、関節の動きが不自然になるため、顎関節症へと繋がっていくのです。

また、歯が抜けたり、欠損したまま放置したりすると、歯並びが悪い状態がずっと続く状態になり、噛み合わせが変わることで顎の不調につながります。

 

定期的な健診で歯の健康を維持することは、噛み合わせを正しく保ち、顎関節症を予防するために重要なのです。

 

ドライマウス

ドライマウスは、何等かの理由で唾液の分泌量が減少し口の中が乾燥する疾患です。

ドライマウスが進行することで、口の中の渇きが原因で飲み込みや会話が困難になったり、口臭の原因となることがあります。

 

ドライマウスは歯の健康のみに影響している疾患ではありません。糖尿病や腎不全といった病気が原因の場合もあれば、ストレスや薬の副作用といった原因もあります。

 

歯の健康が理由でドライマウスになる場合、虫歯や歯周病の進行で伴う痛みや不快感から、食事の摂取が減少することで、唾液の分泌が減少する可能性があります。

 

また、歯周病が進行すると、唾液腺に炎症が広がり、唾液の分泌が正常に機能しなくなることも考えられます。

 

残念なことに、ドライマウスが進行すると唾液の洗浄作用が弱まるため、口腔内の細菌が増殖しやすくなってしまう「追い打ち」も引き起こされてしまうのです。

 

口臭

ドライマウスが引き起こされることで、口臭がきつくなる場合もあります。

歯が不健康でドライマウスが起こると、唾液の分泌が減少し、口腔内の自浄作用が低下します。自浄作用が低下した口内では虫歯が進行し、歯の内部に感染が広がると、膿がたまることで特有の強い臭いが発生することもあります。

 

頭痛や肩凝り

先ほど顎関節症の段落にて「嚙み合わせで顎が緊張する」とお伝えしました。

この筋肉の緊張は顔から始まり首・肩へと連動することで頭痛や肩凝りといったつらい症状を引き起こす可能性が高まるのです。

 

悪くなってしまった噛み合わせは、歯ぎしりや食いしばりを誘発しやすいのも頭痛や肩こりの原因となり得ます。

 

筋肉の緊張が続くことで血流が悪くなり、慢性的な肩こりや頭痛が発生するのですが、加えて歯の痛みや不快感がストレスとなるため、筋肉の緊張が助長されることも。

慢性的な肩こりにや原因不明の頭痛に悩まされている方は、もみほぐしの前に歯科健診を受けることも選択肢として良いのではないでしょうか。

 

 

糖尿病

一見無関係に思える糖尿病と歯の疾患ですが、特に歯周病は糖尿病と深い関係性があるとされています。

 

歯周病は、進行すると細菌が歯茎から血流に入ることで体内の炎症が増し、インスリンの働きが阻害されることで血糖値が上がりやすくなるのです。このプロセスは糖尿病の進行を加速させる原因となります。

 

一方で、糖尿病患者は免疫力が低下しやすく、感染症にかかりやすい傾向があります。そのため、歯周病などの口腔内の感染症が悪化しやすく、治りにくくなるという側面もあり、結果として、糖尿病と歯周病が互いに悪循環を引き起こすと言われています。

 

 

骨粗鬆症

骨粗鬆症は、骨の密度が減少し脆くなる病気で、主に閉経後の女性や高齢者に多く見られるとされます。時に、歯周病が引き金となってリスクが高まることがあります。

 

歯周病によって咀嚼が難しい場合、食事の消化吸収する力が低下することも骨を脆くする原因の一環となり得ます。

 

また、骨粗鬆症そのものが口腔内にも影響を与える場合があるでしょう。骨粗鬆症の影響で顎の骨が弱くなると、歯を支える力が弱まり、歯が抜けやすくなるなどの問題が生じます。

 

メタボリックシンドローム

先述のとおり、歯周病が進行すると、体内で慢性的な炎症が引き起こされインスリンの働きに影響を及ぼします。インスリン抵抗性が高まると、血糖値のコントロールが困難になり、最終的には肥満や高血圧、脂質異常など、メタボリックシンドロームの構成要素が進行することも。

 

さらに、歯が健康でないと食事の質が低下しがちです。歯の痛みや不快感から柔らかい食事に偏ると、栄養素の摂取が不十分になるため肥満や代謝異常を招く要因となりかねません。

 

 

歯の健康は健やかな老後に必須の条件!

2025年から始まるであろう歯科健診の義務化。まだ費用やどういった内容になるかなどは不鮮明ですが、実現すれば働く現役世代にとって、歯の健康にもっと気付く良いきっかけになることでしょう。

 

人生100年の時代。いつまでも健やかに食べて遊んで笑ってと、豊かな人生を歩むためにも今から歯の健康と向き合っておきましょう。