あなたの「褒め方」がチームを変える!職場におけるエンハンシング効果とは?





「叱咤激励」ひと昔前であれば、熱くて理想の上司からの応援歌のように聞こえました。しかし時は流れ、今ではちらついてしまう「強要」「パワハラ」の言葉たち。

時代が違う、と言ってしまえばその一言で終わってしまいますが、よくよく考えたらこの𠮟咤激励や強い言葉でお尻を叩く育成方法が理由で、委縮して本領を発揮できなかった人もたちもいたのかも知れません。

そこで今回は、上の立場になる人たちが知っておくべき「エンハンシング効果」について解説していきます。

 

エンハンシング効果とは?

エンハンシング効果とは、「外発的動機によって内発的動機を向上させる効果」を指します。

 

「外発的」とはそのまま「外からの刺激」です。周囲からの刺激によって「内発的」、つまり自分自身の動機=モチベーションが上がる状態をエンハンシング効果と言います。

(ここから先は動機をモチベーションと統一して進めていきます。)

たとえば、チーム全体でダラダラと働く空気感ができていると、よほど自分の意志が強くない限り「これでいいか」と仕事のパフォーマンスも下がります。

対して、仕事環境や職場における空気感・リーダーシップなど、外からの刺激が「ポジティブ」に作用する場合、従業員はその空気感に合わせててきぱき仕事をこなすようになります。

外発的な要因が従業員個人のモチベーションやパフォーマンスを向上させてくれるということです。

少し抽象的な表現になりますが、(強要ではない)ポジティブな「空気感」は、職場全体に良い影響を及ぼし、結果として生産性や従業員の満足度が向上するといった効果があります。

結果、従業員が自発的に、仕事に対するモチベーションを維持しやすくなるのです。

 

内発的モチベーションと外発的モチベーションの関係 

エンハンシング効果において重要な用語「内発的モチベ―ション」と「外発的モチベ-ション」について解説します。

モチベーションは、仕事において成果を上げるためのカギです。目標達成を成し遂げ「この仕事がおもしろい」と組織に愛着を持たせるにも、モチベーションは必要な要素となります。

まず「内発的モチベーション」は、行動や目標達成に対し、個人の興味に起因するとされます。

たとえば、その業務内容そのものが楽しいと感じたり、自らが仕事に意味を見出し自発的に動きたいと欲することが、内発的モチベーションです。

「子どもの頃から美容師になりたくて夢を叶えた」というのは、内発的モチベーションで得た自分の道ですね。 

また、新しいスキルや、自己成長のために資格を得たい、という欲求も内発的モチベ―ションになります。

次に外発的モチベーションについてです。

外発的モチベーションは、外部からの刺激が起因とされます。例えば、昇進や給与の増加、上司・同僚からの評価などが外発的モチベーションの一例です。

 

外発的モチベーションは、瞬発的な効果があります。しかしながら「外」からの刺激ですので、刺激を与える側・受け取る側で温度差が生まれてしまうこともあります。

たとえば「褒めたつもり」が的外れであれば、外発的モチベーションのスイッチはONになりません。

また、評価によって得たモチベーションは、評価自体が下がったり、あるいはまた他人から評価されるそのシステムそのものによってモチベーションが下がったりと、内発的モチベーションに比べて不安定と言わざるを得ないのが特徴です。

エンハンシング効果とは、この外発的モチベーションを起因にして、内発的モチベーションのスイッチを入れて、長期的にモチベーションの高い状態を作る、と考えて頂ければと思います。

 

そもそも「モチベーション」とは?やる気、意欲とはどう違う?

「モチベーション」はほぼ日本語のように私たちの言葉に居座っています。しかし、モチベーションの意味は?と質問すると曖昧な人が多く、「意欲」「やる気」と混同して使われていることも多いでしょう。

「モチベーション」とは「目標に向かって行動するための内発的または外発的な要因」と定義付けられます。つまり、自分の内面からでも、外からの刺激であっても生まれてくると言う意味です。

モチベーションは、従業員が目標達成にむけて自発的に動く「心理状態」であり、欲求、欲望、報酬、責任感など、さまざまな要因によって引き起こされます。

 

「意欲」とは「特定の目標や結果に対する強い望みや欲望」と定義されます。

従業員が達成したい目標や成果に対する熱意であり、意欲は持続し実行力が伴います。

意欲がある場合、その目標に向かって努力し、実現に向けて行動をするため、長期的な目標に対してその力を発揮します。

「やる気」とは「特定の活動や仕事に対する強い興味や情熱」と定義されます。ここだけ読むと「意欲」と変わりがないようですが、やる気だけでは「行動力」が伴わないこともあります。

「やる気はあるが行動できない」人がいるように、その物事に対して興味はあるが、そのエネルギーは一時的で感情的であると指摘されます。

まとめると、モチベーションは行動に駆り立てる精神力、意欲は達成したい目標や結果への欲望、やる気は活動に対する瞬間的な情熱や興味といえるでしょう。

 

エンハンシング効果においては、外発的要因から従業員に対して「モチベーション」の高い心理状態を常態化させ、目の前のことに「やる気」をださせること、また未来設計にお置いて「意欲」を持続させること、と使い分けることができます。

 

エンハンシング効果を活用するには?

しばし、エンハンシング効果とは「褒めて育てる」ことを強調される場合があります。

これは、心理学としてエンハンシング効果を子ども教育に充て、注目されたことに起因します。そのため「部下は褒めて育てるのがエンハンシング効果」と捉えられがちですが、職場におけるエンハンシング効果とは、ただ褒めて育てるだけではありません。

褒めて育てるにしても、「外発的要因」が大切な役割を果たしますので、ただ闇雲に褒めるだけではエンハンシング効果は作動しないのです。

上司や先輩という上の立場として、また企業として、どのようにエンハンシング効果を職場で活用すれば良いのか、ポイントとなる方法をお伝えします。


スキル向上の機会

エンハンシング効果を高めるために、従業員が新しいスキルや資格を獲得する機会を提供します。

仕事を通じてモチベーションが高まったとしても、ずっと現状を維持させられる状況下では、しだいにやる気も無くなり、モチベーションが低下していく状況を作ってしまいます。

従業員自らがパフォーマンスを向上にむけて行動ができるよう、企業はサポートをすることが大切です。

 

適切なフィードバックと評価

従業員に対し、具体的なフィードバックの提供と適切な評価をしましょう。「褒めて育てる」の部分に相当しますが、正当な評価程、モチベーションを維持させるものはありません。

逆に、精一杯頑張っているにも関わらず、評価が適切でない場合は、モチベーションの低下に繋がります。

 

積極的に仕事の幅を増やす

従業員には、スキルや能力を活かすことができるように、定期的に仕事の幅を増やすことも効果的です。

もちろん、事務のプロフェッショナルがいきなり生産ラインに回されると、それは適切ではありません。その従業員の個性と強みをよく読み取り、プロセスを持って成長の機会を提供しましょう。

 

コミュニケーションの機会を増やす

リモートワークが増えたことで、コミュニケーションの機会が激減したと言われています。

現状に対して不満や不安はないかなど、詳細に聞き取りができるコミュニケーションの機会を増やすようにしましょう。

この際、間違っても部下や後輩の話を遮って自分の話をしたり、頭ごなしに説教をしたりなどは完全に悪循環になりますので気を付けてください。

コミュニケーションの場は、組織として向かう方向性と理念とを明確にし、従業員と共有する場です。従業員が組織の方向性を理解しやすいように、明確に言語化して伝えましょう。

 

ワーク・ライフ・バランスのサポート

どれだけ報酬が高くても、長時間労働の常態化や不適切な労働環境ではモチベーションを維持することは困難です。

ライフステージの変化に対応できるよう、フレックス制度の導入やリモートワークなど、ワーク・ライフ・バランスをサポートする条件を整えるのも効果的です。

ワーク・ライフ・バランスについては、こちらのコラムをお読みください:

ワークライフバランスの取り組みは企業にもメリットがいっぱい!正しく理解しましょう

 

  

リーダーシップの質の向上

上司や先輩が「誤ったリーダーシップ」の元、後世の指導を行っているとモチベーションの低下どころか離職に繋がってしまいます。 

従業員と信頼関係を築き、適切なコーチとして背中を見せられるリーダーの存在は、エンハンシング効果を高めるために絶対必要な人材です。

リーダーシップの質を向上させるためのセミナーを設けて、学びの場を提供できるようにしましょう。

 

危険!その指導方法はアンダーマイニング効果を生んでしまいます!

 

アンダーマイニング効果とは、エンハンシング効果と真逆の意味で使われます。

モチベーションの高かった従業員が、組織内の信頼や協力関係が損なわれるといった外発的要因によってモチベーションが低下してしまうことを指したものです。 

例えば、不適切なコミュニケーションや、不当な評価などがアンダーマイニング効果を助長するとされます。

せっかくモチベーションの高かった従業員に、なぜアンダーマイニング効果が起こってしまうのか、いくつかの原因となる状況を解説していきます。

 

競争心や嫉妬心

モチベーションの高まりによって、正当な評価を得られたとしても「評価を得ること」に固執をしてしまうと、競争心や他人に対する嫉妬心でモチベーションが下がる場合があります。 

アンダーマイニングは、従業員個人の性格とも深く関わりがあり、他者の成功を素直に喜べなかったり、評価を受ける同僚を「脅威」と見なしたりなど、自らの心持ちでモチベーションを下げてしまう場合があるのです。

とくに、モチベーションをあげようと高すぎる目標を制定したり、その部下のライバルとなるような特定の人とばかりコミュニケーションを取っていたりすると、こういった競争心や嫉妬心を煽ることにもなってしまいます。 

 

目的が報酬に変わる

「報酬」は外発的モチベーションの1つとしてとても重要な因子です。しかし、報酬だけが目的に変化してしまっては、チームワークが疎かになったり、自己成長は二の次になったりと外発的な部分に囚われすぎて内発的モチベーションが機能しなくなる場合があります。

また、報酬を得るためであれば長時間労働を厭わなくなるなど、ワーカホリックへの道を進みかねません。

内発的モチベーションは自己成長に繋がる働き方であることを従業員に示すことも大切です。

ワーカホリックに関しては、こちらのコラムで詳しく書いていますのでぜひご一読ください。

ワーカホリックは気付きにくい!燃え尽き症候群にならないよう正しい理解を!

 

 

コミュニケーションの不足

エンハンシング効果が発揮されるためには適切なコミュニケーションが必須だと前述しました。すなわち、コミュニケーションの不足はアンダーマイニング効果をもたらす可能性があります。

ただし、コミュニケーションは「量」より「質」です。いくらコミュニケーションが頻繁に行われていても、上司や先輩からの一方的な独演会であったり、あらゆるハラスメントを含むような不適切なコミュニケーションであったりすると、最悪の場合離職に繋がりかねません。

 

周囲からの評価

周囲からの評価はエンハンシング効果にとって大切です。しかしそれが目的になっては逆効果です。

評価が仕事の目的になってしまうと、「評価される」ことだけを気にしてしまいます。

そのため、自分の気持ちはおざなりにして無理をして仕事に取り掛かる可能性があるのです。

とくに、周囲から尊敬をされたいタイプの従業員や、プライドの高い従業員は「評価」されることを絶対的な価値として捉えてしまいますので、気を付けた方が良いでしょう。

 

集団心理

日本人は集団化しやすいといいます。よく頑張るグループに所属をすると、同じような影響がでますが、手抜きをするグループに入ると同じように手抜きをし始める、といった状態です。

エンハンシング効果同様、アンダーマイニング効果も同様に作用します。

グループや組織内でアンダーマイニングが起こる場合、一部のメンバーがネガティブな思考・行動をとることによって、他のメンバーも同調しやすくなるのです。

また、組織やチームのリーダーが他者を批判的に見たり、批判的な態度で接する状態が日常化していると、メンバーたちも同じような行動をとることがあります。これは、対象となる人のモチベーションを低下させるどころか、「大人のいじめ」として深刻な問題になる可能性があります。

 

リーダーシップの態度が組織の文化に影響を与えることが考えられますので、チームの空気感はリーダーが率先して清浄化する必要があるのです。

 

アンダーマイニング効果は、社会的相互作用や人間関係における複雑な要因が絡み合った結果として生じるものです。これを防ぐためには、相互理解、オープンなコミュニケーション、リーダーシップの質向上などが重要となります。

 

こんな褒め方していませんか?上手な褒め方と下手な褒め方

エンハンシング効果を高めるために「褒める」ことは絶対不可欠です。ですが、ただ闇雲に褒めたり、突拍子もない褒め方では意味がありません。

部下を褒める際には、モチベーションの向上になるような褒め方を心掛けましょう。どのように褒めればよいのか、具体例を使って解説していきます。

 

上手な褒め方①具体的で明確なフィードバックがある

どういったことを褒めているのか、何を褒めているのかを明確にし、フィードバックという形で部下を褒めます。

具体例:

「昨日のプレゼンテーション、論理的かつ分かりやすい説明だったよ。データをわかりやすく視覚的に示したのも良いね」 

「今朝のミーティングでの提案、新しいアイデアが良い視点だったよ。チームの皆も刺激されたと思うよ」

 

何がどうよかったのか、それによってどう良い変化がもたらされたのか、などを褒めましょう。

 

上手な褒め方②チームに対するポジティブな効果と影響の強調

 従業員個人の成果や努力が、チームに対してどんなポジティブな効果と影響を与えたのかを強調しながら褒めます。

具体例: 

「頑張ってくれている姿が、チーム全体のモチベーション向上に繋がっているよ。ありがとう。」

「チームの中心となって大変だったと思うけど、その努力が今回のプロジェクトの成功につながったよ。」

 独りよがりではなく、自分が頑張ったことでチームが良い方向へ舵を切ることができたことを評価しましょう。

 

下手な褒め方①抽象的で一般的な言葉:

下手な褒め方は、抽象的な言葉を用いて、端的に行われます。「何がどう良かったのか」がわかりづらく、今後の努力の方向性が見えにくくなります。

具体例: 

「よく頑張ったね」

「いいんじゃない」

 

正直、普段口数の少ない上司からこの2つを言われたら嬉しく感じてしまいそうですが、普段はよく話をするのに、褒めるとなるとこの2つでは言葉がたりません。

「言わなくても伝わっていると思った」なんて熟年離婚の言い訳のようなことはやめて、具体的な褒め方をするように変えていってみましょう。

  

下手な褒め方②比較や競争を強調する

部下を褒めるときは、その部下個人だけを対象にしましょう。誰かと比較したり、褒めたあとに否定的なことを言って帳消しにしては台無しです。

具体例:

 「あの提案は、〇〇さんよりはマシだったね」

「この前の案件、良かったけどまだまだだね」

 

上司として、褒めたあとに注意をすることはもちろんあります。その際も「何に気を付けていればよったのか」を具体的に提示してあげましょう。

「まだまだだね」と言われて燃え滾る人もいますが、困惑を招くリスクもあります。一方的なコミュニケーションにならないように、注意が必要です。

 

 エンハンシング効果はさまざまなメリットをもたらす!


昨今、 「褒めて育てる」が独り歩きをしすぎてしまい、とくにZ世代の若手社員が現実にぶち当たる苦悩が多いとも言われます。確かに、実際の社会では褒められるだけでは通用しないのが、昭和・平成を生き抜いた大人たちがいる現在の状況でしょう。 

従業員個々の性格もあり、厳しい言葉を糧に頑張る若手も確かにいます。しかしその反面、言葉によって傷ついたり周囲との関係性が構築できなかったり苦労する人がいるという認識を持つことも、これからのリーダーとして必要な意識です。

いずれの方法であっても、従業員のモチベーションを的確に上げていくには、適切なコミュニケーションを普段から取ることが大切です。

 

「この組織でがんばりたい」「この組織の成長に貢献したい」と内発的モチベーションを作動させるようにできるかどうかが、離職率を押さえて次世代のリーダーを排出する要因にもなるのです。

外発的モチベーションは健康経営の元生み出されると言って過言ではありません。

 

弊社では、企業様の健康経営を積極的にサポートしています。

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