多様性、SDGsといった言葉は、珍しくなくなりました。誰もが多様性を認め合い、尊重できる社会で長く活躍できるよう、価値観は常にアップデートを求められています。多様性の尊重において、ダイバーシティマネジメントがこれからの社会に重要であると言われますが、企業にとってダイバーシティマネジメントはなぜ求められていて、何を求められているのでしょうか。
ダイバーシティマネジメントの根本や課題を知って、理解を深めていきましょう。
ダイバーシティマネジメントとは?
まずは「ダイバーシティ」について復習しましょう。ダイバーシティとは「多様性」を意味します。一般的にダイバーシティとは、社会において年齢・性別・人種・宗教など、さまざまな属性の人達が集まった状態を指し、主に人権問題において使用されることの多い単語です。
企業経営や人事において使われるダイバーシティの意味するところは、先に述べた属性に関わらず、「多様な人材と多様な働き方の尊重」を意味しています。
つまり 働く人それぞれの多様性を強みとして活かし、企業を成長させることがダイバーシティマネジメントです。多様な人材、多様な働き方をただ受け入れるだけではなく、強みとして活用することがダイバーシティマネジメントの大きな意味合いです。
ダイバーシティが意味する範囲
多様な人材、と一言にいっても具体的なイメージを掴むことが難しいかも知れません。ダイバーシティが意味する範囲は無限、と捉えても良いほどですが、具体的な例を上げるとすると以下になりますので参考にしてください。
・性別
・年齢
・人種
・国籍
・宗教
・価値観
・セクシュアリティ
・障がい
・働き方
ダイバーシティの定義は無限大とお伝えしたように、カテゴリーで分けることは困難です。しかしながら、ダイバーシティを体系化して理解し、施策を実行することは、的外れな目標を掲げることを防ぐことができます。
ダイバーシティ研究においてダイバーシティは3つの類型に分類されると言われます。それぞれ、「デモグラフィー型ダイバーシティ」「タスク型ダイバーシティ」「オピニオンダイバーシティ」について解説していきます。
デモグラフィー型ダイバーシティ
デモグラフィー型ダイバーシティとは、性別・国籍・年齢など、属性の多様性を指します。男女の雇用機会均等や、外国人の積極採用など、これまでに多くの企業が導入しているダイバーシティマネジメントはデモグラフィー型と言えます。
タスク型ダイバーシティ
タスク型ダイバーシティとは、能力や経験・知識など実力の多様性を意味します。通常、タスク型ダイバーシティはデモグラフィー型ダイバーシティが根付いた後に意識がされ、イノベーションへと繋がっていきます。
オピニオンダイバーシティ
オピニオンダイバーシティとは、「オピニオン」=「意見」の多様化、すなわち、従業員がそれぞれの意見を発信できる風土を意味します。
オピニオンダイバーシティは、日本の社会風土において最も達成が難しい課題だともされています。同調圧力に弱い傾向があり、また「意見」を言うよりも「調和」を良しとする文化は、美徳であったとしても必ずしも企業成長に繋がるとは言えません。
なおかつ、意見を言えない若い世代が多いことも指摘されています。同調圧力もありますが、そこには「自己肯定感の重要性」が無視できません。
内閣府の若者の意識調査によると、「自分は役に立たないと強く感じる」の設問に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した人の割合は50%を超えており、これは諸外国に比べると自己肯定感の低さを裏付ける結果となっています。
参考:日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~|令和元年版子供・若者白書
概要版
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01gaiyou/s0_1.html
グローバル社会において、自分の意見を持つことは「生き残り」にとても大切だとされます。ダイバーシティマネジメントの導入で、外国人と肩を並べて働くとき、自分の意見を言えるかどうかは、その後の収入や職場での立ち位置に直結すると言っても過言ではありません。
伝える力、自己表現力を養うことは、個人レベルの問題ではなく、企業成長においても今後もっと重要性を持つようになるでしょう。
ダイバーシティマネジメントはなぜ必要?
これまでの採用基準や働き方をなぜ変革しないといけないのか?と疑問の方もいらっしゃると思います。
ダイバーシティマネジメントが求められているのは、ただ世界的な基準に合わせることが目的ではありません。
なぜ今、企業にダイバーシティマネジメントが必要なのか、その理由を解説いたします。
人手不足
少子高齢化は深刻な社会問題です。今、どの業界においても「人手が足りていない」という声が聞こえてきています。厚生労働省の発表によると、2013年に雇用人員は過剰感から不足感に転じた後、全ての企業規模において趨勢的に人手不足感は高まり続けているとのことです。この事実は、もはや「他人事」ではありません。
参考:厚生労働省「人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について」https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2.pdf
多様な人材の確保だけではなく、多様な働き方を受け入れて戦力とすることで、優秀な人材を確保し続ける手段になります。
たとえば、せっかくTOEICのスコアもスキルも高い女性社員が、結婚・出産・介護といったライフステージの変化で、働く機会が失われるのはとても「もったいない」と感じませんか?
「今ある」人材をいかに長く定着して働いてもらうかが、今後の生産性を上げていく鍵になるのです。
グローバル化
国内の人口が減り続けていることは、ニュースなどで日々取り上げられる社会問題です。これはすなわち、国内マーケットが縮小傾向にあることを意味しています。
悲しい現実として、現在の日本は、かつてのような「経済大国日本!」と言うには時が過ぎ去りすぎたのかもしれません。これからは、外国との結びつきなしに経済発展はさらに困難になると見通しがたてられています。
日本の競争力・生産性の改善には外国人労働者の確保など、国籍を問わずグローバルに活躍できる人材の確保が必要不可欠です。しかし、外国人労働者を採用した場合、従業員の語学力だけを鍛えれば良いのかと言えばそうではありません。
「意見を言う」ことに慣れている欧米諸国の従業員と対等に議論ができる力も必要になるでしょう。そのためには日頃からオピニオンダイバーシティの風土が整っていることが大切です。
意識変化
ひと昔前までは、良い会社へ入って仕事をバリバリこなして良い給料をもらうことが「人生の成功」として語り継がれてきました。
しかし近年、仕事と私生活が両立できて初めて人生は豊かであるという方向に多くの人の意識は変化しています。求職者の働き方への意識変化は、ダイバーシティマネジメントに取り組むべき理由の大きな1つです。
「ワーケーション」という言葉があるとおり、仕事だけのために時間を使うのでなく、息を吸うように余暇も取り入れることが、ある意味「トレンド」の働き方です。
と言うことは、ワークライフバランスやワーケーション、ギグエコノミーといった単語に馴染みのある世代にとって「働きたい職場」のイメージがダイバーシティマネジメントできているかどうかに直結することも不思議ではないのです。
ワークライフバランスについてはこちらの記事をお読みください。
ワークライフバランスの取り組みは企業にもメリットがいっぱい!正しく理解しましょう
これまでのスポ根的な働き方を貫いたとしても求人コストがかかるだけになってしまう可能性があります。企業がダイバーシティマネジメントに取り組むことは、意識変化に対応できる企業であると、イメージアップの戦略にもなるのです。
ダイバーシティマネジメントが浸透しにくい理由と課題
大企業や外資系企業においては、ダイバーシティマネジメントが浸透しやすい環境にあることでしょう。たとえば「社内公用語を英語にする」というのも、多様な国籍を受け入れる1つのダイバーシティマネジメントですが、全ての企業で参考になる方法かと言われれば無理があるはずです。
では、ダイバーシティマネジメントが浸透しない背景には、どんな理由があるのでしょうか。
ダイバーシティマネジメントで考えられる課題と対策を押さえておきましょう。
ダイバーシティマネジメントの課題
「ダイバーシティ」の何に焦点を置くかで浸透しているのか否かは異なります。たとえば、女性の社会進出でダイバーシティを捉えるならば、長い年月をかけて浸透してきました。
ところが、さまざまな人種が一緒に働くことに焦点を当てると、まだまだ浸透していません。欧米諸国のように「肌の色の違いによる明らかな差別」が日本では比較的少なかったため、この点においてダイバーシティマネジメントを取り入れる事案がなかったのも事実です。
また、中小企業の多さもダイバーシティマネジメントが浸透しにくかった要因の1つとされます。中小企業では大企業のように研修や制度が整っていないことも多く、また大企業のように取り組む余裕がないという声も多く聞かれます。
しかし進む少子高齢化と働き方・価値観の多様化において、従来どおりの採用基準や経営方針を貫くことは、もはや「人手の確保」が難しい時代に突入していると認識せざるを得ません。
ダイバーシティマネジメントが浸透しない理由を1つずつクリアしていくことが、今後の人材確保に繋がると言っても過言ではないのです。
コミュニケーションの問題
ダイバーシティマネジメントが浸透しにくい1つに「コミュニケーションの問題」があげられます。たとえば単純に、語学力の問題もありますし、先述した「オピニオンダイバーシティ」では意見を言うことに対するストレスや、逆に後輩や部下から意見を受けるストレスに耐性ができていない場合があります。
こういった問題点は、ダイバーシティマネジメントを導入する前に研修を設けるなど対策が必要です。
また、異なる文化や価値観において、相互理解を進めないでいると、新しいアイデアが生まれる前に従業員同士の確執が起こる可能性もあります。
ダイバーシティマネジメントを浸透させるには、受け入れる体勢を整えること、また既存の従業員の間でコミュニケーションを活発にさせておく文化を下地として作っておく必要があるでしょう。
ハラスメントの問題
ハラスメントは「いやがらせ」を意味します。広い意味で用いられますが「何がハラスメントに相当するのか」は「相手に不快感を与える」ことがポイントです。
たとえば、在宅勤務の人に対して「出社せずに楽だね」と嫌味な発言をしたり、管理職の女性に対して「何か色気を使ってここまで登ってきたのだろう」と陰湿な噂を流したり、「日本人じゃないのに寿司食べるんだね」と国籍による無理解な発言をしたり、などハラスメントに相当するものは広く存在します。
ハラスメントは「それがハラスメントに該当すると理解していない」状態で起こります。多様な人や多様な働き方が増えるほど、ハラスメントに対する研修・セミナーを施すことが、ダイバーシティマネジメントの推進に大切な要となるのです。
ハラスメント・ハラスメントの問題
ハラスメントの問題と同時に、昨今ではハラスメント・ハラスメント、いわゆる「ハラ・ハラ」も問題にあがっています。
ハラスメントは基本的に「相手が不快感を覚える」ことがポイントですが、しかし業務上適切な指示であっても「ハラスメントを受けた」と表明してしまうケースがあるのです。
業務上の指示において、ハラスメントに該当するか否かは「平均的」であることが基本とされます。多くの人が「行き過ぎた指示」だと捉えるのであればもちろんハラスメントですが、自分の「したくない」「できない」を理由に「ハラスメントを受けた」と申し出るのはお門違いであることはわかるでしょう。
先ほど「ハラスメントに該当すると理解していない」とお伝えしましたが、ハラスメントだと「お気持ち表明」する人もまた、何がハラスメントなのかを理解できていません。
ダイバーシティマネジメントを進めるにあたり、今一度何がハラスメントに該当し、何が業務指示に当たるのかは従業員一同で認識をすり合わせる必要があるでしょう。
ダイバーシティマネジメントで企業価値を高める!
経済産業省の既にダイバーシティマネジメントを取り組んでいる企業を対象にした調査によると、ダイバーシティマネジメントで得られたメリットとして「人材の獲得」「業績の向上」「ブランド力や評価の強化」が上位の回答として挙がっています。
参考:経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/diversitykyousousenryaku.pdf
健康経営やダイバーシティマネジメントといったクリーンなイメージは、今後の企業成長において大きな要となります。
ダイバーシティは対象となる範囲がまさに多様ですので、まずは取り掛かることができそうな内容から、理解と拡大に着手してみてはいかがでしょうか。
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