貧血は、初期段階ではあまり自覚症状が無く見つけにくい病気です。
鉄やヘモグロビンの役割を知り、食事で貧血を予防する方法を管理栄養士の観点からお話いたします。
貧血ってどんな病気?
血液の成分は赤血球、白血球、血小板などであり、貧血とは赤血球の中の血色素=ヘモグロビンの濃度が基準値より低下した状態を言います。
ヘモグロビンは赤血球の90%を占めており、体のすみずみまで酸素を運ぶ重要な役割をしています。そのヘモグロビンが欠乏すると、全身の細胞へ酸素が回らなくなり、めまいや動機、息切れなどの症状が起こりやすくなります。放置すると脳や心臓に供給される酸素量が減り、心不全に繋がる恐れもあります。
しかし、慢性的な貧血は症状が出にくく、自分には該当しないと考えがちです。
生理痛、食欲不振、胃が重い、爪が弱いなど意外と知られていない貧血の症状もあります。最低でも1年に1回は定期検査を行いましょう。
また、鉄の役割は重要であり、骨、皮膚、粘膜を作る、白血球の働きに関わり免疫力を高める、活性酸素の消去に関わるなど、全身の機能に深く関わっています。
日本人が1日の食事から摂取する鉄の推奨量は、成人男性では7.5mg、月経のある女性では10.5mgとされています。卵1個で約0.9mg、赤身の牛肉60gで約1.5mgの鉄が摂れます。
そのため、朝はパンやコーヒーたけといった食事で鉄分を補う事は難しいでしょう。毎食鉄分を意識した食生活が必要です。
また、日本人はヘモグロビンが十分にあっても、貯蔵鉄(フェリチン)という身体に蓄えられている鉄が不足している場合があります。ヘモグロビンは、赤血球の中にある鉄の指標であり、例えるなら日常的に持っているお財布からお金を使うイメージです。
フェリチンは赤血球以外に身体に貯蔵されている鉄の指標で、例えるならば銀行に預けているお金です。
財布の中身が多くても、銀行に預けているお金が少ないと不安ですよね?
体の中の鉄欠乏も、同じ事か起こっているのです。フェリチンは追加料金を払えば血液検査を受ける事ができますので、貧血が不安な方、これから妊娠を考えている方はぜひチェックしてみて下さい。
子どもでは離乳食後期、幼児期、月経がはじまる思春期で鉄欠乏の危険が高まります。赤ちゃんはお腹の中でお母さんからフェリチン(貯蔵鉄)をもらって生まれてきますが、生後半年程で使い切ってしまうため、生後半年位の離乳食から鉄の補給が重要と言われるようになりました。
また、思春期の女の子は鉄の必要量が3mgほど増える為、家庭の食事から補う必要があります。男の子は、運動量の増える成長期は鉄が大量に消費される時期です。勉強の成績が下がる、朝だるくて起きられない、疲れやすい、イライラしやすいなどの症状で生活に支障が出るようであれば、鉄不足を疑ってみましょう。
大人では妊娠期、産後授乳期に貧血を引き起こすリスクがグッと上がります。
胎児はお母さんに鉄欠乏があったとしても、身体と脳の成長の為に容赦なく鉄を吸収します。妊娠中の女性に鉄欠乏があると、流産や早産のリスクが高まる可能性があるのです。加えて、胎児へ鉄を与えてあげられる期間が短くなるので、赤ちゃんが鉄欠乏になる可能性があります。
そして、出産時の出血が多かったり授乳(母乳も血液から作られます)、産後早期の月経開始などが重なると、お母さんの鉄は底をついてしまいます。鉄欠乏は産後うつの原因になるとも言われていますので、しっかりと対策をする事が大切です。
また、鉄はやる気を出す、幸せな感情を作るなどの脳内ホルモンを作る材料にもなりますので、精神の安定にも必要不可欠なミネラルです。例えば神経伝達物質であるセロトニンは別名「幸せホルモン」と呼ばれていますが、鉄が不足する事でセロトニンが作られなくなると、疲れやだるさ、うつっぽいなどの症状が現れる事があります。
貧血の種類を知ろう
貧血の原因の多くは鉄欠乏性貧血によるもので、体内の鉄分が不足することから起こります。
女性は月経や妊娠出産で顕著に多くなりますが、男性では潰瘍やクローン病、痔などの病気で貧血になる事があります。その他にも、下記のように、貧血になる原因はあります。
【巨赤芽球性貧血】
胃の摘出手術などで葉酸やビタミンB12不足によって起こります。貧血ベジタリアンビーガン食の型も注意が必要です。
【スポーツ性貧血】
激しい運動により足裏をたたきつける衝撃で赤血球が壊れ、微量の出血を起こし続ける事で貧血になってしまいます。
ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収率の違い
ここで、貧血を改善する為のポイントであるヘム鉄と非ヘム鉄の違いについてお話したいと思います。
【ヘム鉄】
主にレバーや赤身の肉、魚、などの動物性たんぱく質に多く含まれています。吸収率は10~30%で、非ヘム鉄よりも吸収率が良いとされています。
【非ヘム鉄】
主に大豆製品やひじき、小松菜、プルーンなどの植物性食品に含まれます。
吸収率は5%以下と言われています。
鉄の吸収率を上げるのための食べ方の6つのコツ
毎日の尿や汗からも、ミネラルである鉄は失われます。
特に月経のある女性は毎日の食事から貧血対策を心がけていきましょう。
葉酸とビタミンB12をしっかりととる
葉酸は菜の花、ほうれん草、小松菜、ブロッコリーなどに多く含まれています。妊娠を希望する前から摂りましょうと、厚生労働省から発表されている栄養素ですが、なぜ大切なのでしょうか?
それは、神経管閉鎖障害と言って赤ちゃんの脳の発育に影響を与えてしまう事があるからです。赤ちゃんの脳ができるのはなんと妊娠6週目。その頃までには脳の神経がほぼ出来上がってしまうので、妊娠が分かってから葉酸をたくさんとっても手遅れなのです。
また、「葉酸を摂る時にはビタミンB12と一緒に」を合言葉にして下さい。
葉酸は、ビタミンB12と協力して造血作用を発揮します。
ビタミンB12はレバー、アサリ、サンマ、イワシなどの動物性食品や卵、乳製品に含まれています。
肉や魚にレモンをキュ!
野菜や果物に含まれるビタミンCやレモン果汁は鉄の吸収率を高める効果があるため、一緒に食べる方が効率よく鉄をチャージできます。
肉や魚料理、非ヘム鉄のサラダなどに、レモン汁をかける工夫をしてみましょう。
毎食タンパク質を欠かさない
鉄を含む動物性たんぱく質を毎食片手1つ分とる意識をつけましょう。
朝は目玉焼き、昼は焼肉定食、夜は鮭の塩焼きなど、食品をローテーションして献立を考えて行きます。
動物性たんぱく質の他に、ちょこちょこと植物性のタンパク質も補給できる工夫をします。枝豆や豆腐、納豆にも鉄は含まれていますから、副菜として利用しましょう。おやつにはヨーグルトやプリンからもタンパク質がとれます。
緑茶やコーヒーに含まれるタンニンに気を付ける
タンニンとはポリフェノールの一種で、強い抗酸化作用があるため身体に良いとされていますが、非ヘム鉄の吸収を妨げる働きがあるため貧血気味の人や妊婦さんは注意が必要です。
通常量の1~2杯であまり神経質になる心配はありませんが、貧血気味だと感じる方は、カフェインやタンニンの影響がない麦茶や
黒豆茶などを選ぶようにしましょう。
月経に備えてレバーやあさりから鉄分を補給する
月経の前後には鉄のとれるメニューを入れる習慣をつけましょう。
あさりは牛肉に匹敵する鉄を含んでいます。料理をする暇が無い方はアサリの水煮缶を卵とじにしたり、汁ごと味噌汁に入れるとうま味も一緒に頂けます。レバーは焼き鳥を利用すると便利です。
食品以外からも鉄を補給
鉄鍋や鉄玉子(煮物や汁物の調理時に入れておく鉄)などの器具からも鉄を補給する方法があります。
わずかながら、ヘム鉄が溶けだします。
貧血予防レシピを紹介!
ここでは、貧血予防レシピとして、アサリとブロッコリーのトマトパスタを紹介します。
材料(2人前)
パスタ 200g
あさり 150g
玉ねぎ 1/4個
キノコミックス 30g
(しめじ、えのき、まいたけ)
トマト缶 200g
ブロッコリー 50g
トマト 50g
にんにく 3g
オリーブオイル 大さじ2
塩 2g
白ワイン 150㎖
水 150㎖
昆布 1切れ
※準備
・あさりは3%の塩水(100㎖の水に3gの塩)に浸し、蓋かラップをして冷暗所で2~3時間塩抜きする
・殻付きのあさりと白ワイン、水、表面をふき取った昆布を小鍋に入れて加熱する
あさりが開いたら取り出し、あさり出汁を作っておく
作り方
- フライパンに刻んだにんにくを入れオリーブオイルで香りが出るまで炒める
- 切った玉ねぎを入れ、色が透き通ってくるまで炒める
- キノコを入れて炒める
- トマト缶200gとあさり出汁150㎖、塩2gを入れて煮詰める(2/3量位まで)
- 小さな房に分けたブロッコリーとサイコロ状に切ったトマトを加え、火を止め
ソース完成
- たっぷりの熱湯にひとつまみの塩でパスタを茹で、④に加えてソースを和え、皿に
盛り付ける
☆栄養ポイント☆
あさりは鉄の含有量が多い食品です。
造血作用のある葉酸を含むブロッコリーと鉄の吸収を促すビタミンCはトマトからとる事ができます。
サプリメントの利用もまずは食事が基本
貧血にはサプリメントや鉄剤も有効ですが、毎日の食事が偏っていると、その効果が発揮されにくくなります。
まずは、毎日の食事の記録をつけてみて、欠食は無いか、鉄やタンパク質を意識して摂れているか、チェックしてみましょう。そして、こちらの内容を参考に鉄の吸収率を上げる食べ方を意識して、貧血を予防しましょう。